その他

□グラブル
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「お前に天司を造ってもらう」

 ある日の午後。敵対勢力を鎮圧し、己の造物主であるルシファーへ報告するために帰還すると、突然そう言い付けられた。目的も何も聞かされず、入室するなり天司を一体造れと命じられ、承諾する。とりあえず、今回の任務についての報告を済ませてルシファーの私室から退室するなり、さっそく住居区画から研究棟へ向かい、必要な機材や材料を見繕う。

 天司を作るにあって好きなように造ってもよいと言われたが、己には特に好みというものがなかった。なので、いつも通りにルシファーが星晶獣を造るのを手伝うときと同じ要領で天司を造ることにした。性別は自身と同じ男性体。見た目の年齢は未成熟ながらも若々しく、力と可能性を秘めた少年から青年の間くらいに設定する。髪や目の色などは、己と同時期に造られた天司を参考にしつつも、肌の色はより健康的にし、髪質など細かいところは自分なりにアレンジを加えた。

 ルシファーには好きに作るように命じられていたので、特に思考や能力について制限は掛けなかった。自由な心を持った可能性に満ち溢れた天司。おそらくどのような役割を課せられても、この天司なら柔軟に対応できるだろう。

 初めて自分自身の力だけで天司を作り、作成した繭の様子を見守りながら課せられた任務をこなすこと数カ月。造った繭が孵化をした。

 産まれたばかりの天司の気配を察知して研究棟へ飛んでいくと、そこには繭から這い出て来た小さな少年が倒れていた。うつ伏せになっている身体をゆっくりと抱きかかえて、処置台の上へと寝かせる。生まれたままの姿で横たわる姿を見ても胸の中には特に何の感慨もなかった。ただ、ルシファーに命じられて造ったという義務感しかそこにはなかった。

 ルシファーを呼び、誕生したばかりの天司を見せる。すると、彼は「ほぉ……」と小さく笑った。



「お前、こいつに名前は付けたのか」

「名前? いや、付けていないが」



 確か、彼は天司を造るようにと言ったが名前を付けろとまでは言ってなかった筈だ。てっきり、いつも通り彼が天司の名付け親になるのだと思っていたので、名前については特に考えてはいなかった。首を傾げて目の前の彼の顔を見つめていると、小さく溜め息を吐かれてしまった。



「……お前がコイツを造ったのだろう。今すぐコイツの名前を決めろ」

「わかった」



 言われて台の上に視線をやる。何も身に纏わずに安らかな表情で眠っている姿はどこか幼く見えた。彼は私が造った。生まれたばかりの無垢な存在。私の…



「……サンダルフォン。彼の名前は、サンダルフォンだ」



 名前を決め、隣にいるルシファーに告げたが彼はなんの反応も見せなかった。興味も関心もないと言わんばかりに此方を見ることもなく、ツカツカと台に近付く。



「おい、さっさと起きろ。サンダルフォン」



 吐き捨てるように言い放つと、横たわるサンダルフォンへ向かって大きく手を振り上げ、その顔を引っ叩く。そして、無理矢理に覚醒させた。



「お前の名前はサンダルフォンだ」



 うとうとと瞼を開き、ゆっくりと身体を起こすサンダルフォンの様子を気にするこなくルシファーが告げる。サンダルフォンは、どこか鈍い反応で首を傾げてルシファーを見上げるだけで、返事をしない。



「おい、ルシフェル。お前は白痴を造ったのか?」



 サンダルフォンの鈍い反応にルシファーが唇の端を歪めて嘲笑う。



「友よ、それは違う。彼は自律した思考を持つ成長型の天司だ」

「自律した成長型? ということは、他の天司のように刷込み教育を施していないのか?……よくもそのような非効率的なことをする気になったな」

「彼の天司としての潜在的な能力は何ら問題はない。ただ、知性に関しては制限を掛けないかわりに、空の民のように時間をかけて自身で様々なことを学習し、知識や経験を積んでほしいと思ったのだ。私は彼の成長過程を見守っていきたいと考えている」

「空の民のように、か……」



 フッと鼻で笑うと、興味が失せたようにルシファーがサンダルフォンに背を向けた。そして、サンダルフォンを獣達を収容している檻に連れて行くように命じると部屋から出ていった。

 目覚めたばかりのサンダルフォンはとても従順だった。ルシファーの指示に従って獣たちを収めている区画に連行する。道中、彼は何も言葉を発しなかった。黙々と私の後ろをついて歩き、おとなしく檻の中へと収容された。


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