その他

□グラブル
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あれから、ルシフェルさまの部下として彼に仕える堕天司達を観察するようになった。すれ違う堕天司の後をこっそり付いて行き、彼らがいつも何をしているのかを注意深く見て回った。たいてい彼らは堕天司はルシフェルさまに何かを報告し、何らかの指示を仰ぎ、何処かへと去って行く。帰って来た堕天司に労いの言葉を掛けているのも見た。その様子を遠目から見つめながら、じわじわと焦りのような不安な気持ちが湧き上がってきた。

おれは慈悲深いルシフェルさまに造られ、彼に庇護されている。あの御方に何かをしてもらうだけで、未だ何の役にも立てていない。未熟な自分は、現状はただのお荷物でしかない。どうにか、今の状況から一刻も早く抜け出したい。あの堕天司達のようにルシフェルさまのお力になりたい。何でもいい。ほんの少しでもあの御方のために何か助けになることができたなら……。



(たとえ、ルシフェルさまに直接お仕えすることは出来なくとも、あの御方の手足となって動いている彼らの手伝いなら、できないだろうか?)



使い走りや雑用でも何だっていい。間接的にでも、何かあの方の為になにか出来ることがあるかもしれない。まず彼の麾下である堕天司に、何か手伝えることはないか、聞いてみようと思い、彼らの姿を探して回る。しかし、何故か堕天司達は此方が声を掛けようとすると、そのまま気付かない振りをしてスッと避けてしまう。そして、チラリとも此方を見ないまま何処かへと去ってしまう。

何故だ。どうしてこうもあからさまに無視され、逃げられるのか。得体の知れない天司と関わるのがそんなに嫌なのか。


尽く無視され、逃げられてしまい、どうすれば、いいのかわからず途方に暮れるしかない。

ふと、そういえば少し前に自分に声を掛けてきた堕天司の男が居たことを思い出す。



(あの男なら此方の呼び掛けに足を止めるくらいはしてくれるかもしれない……)



唯一、ルシフェルさま以外に自分に話し掛けてきた堕天司。さっそく例の男を探して廊下をあちこち歩き回る。やがて、書庫近くの通路で目当ての男を見つけた。



「あ、あの」



声を掛けると、相手は此方を見てあからさまに嫌そうな顔をされてしまった。

何故、そんな顔をするのか。

まるで、良くないものに遭遇してしまったかのような反応をされてしまい、言葉を続けるのを一瞬、躊躇する。しかし、直ぐにルシフェルさまの役に立つためだと思い直して、腹を括って「忙しいところをすまない」と話しかけた。



「突然だが、何かおれにも君たちを手伝えることはないだろうか」



思い切って、単刀直入にそう切り出してみたが、やはりもの凄く嫌そうに顔を顰められてしまった。そして、「生憎だが、何もない」と素気無く断られてしまった。



「何でもいいんだ。おれもあの御方の役に立ちたいんだ」



めげずにそう訴えるも、ルシフェル様に直接言えとけんもほろろにばっさり切って捨てられてしまった。言うだけ言うと、男はこれ以上関わり合いになりたくないと言わんばかりに此方を振り返ることなく、さっさと足早に去っていった。


廊下の向こうに遠ざかる背中を見つめながら、途方に暮れる。



(ルシフェルさまに直接、言え……か)



しかし、あの御方は……。



『君は何もしなくてもいい』



以前、言われた言葉を思い出して、心臓が締め付けられるように苦しくなった。



「…………」



何もしなくてもいい。それは、余計なことをするなと言っているのと同義でしかない。

ルシフェルさまはおれの力を必要としていない。庇護する立場の者として、とても大切にされていると思う。しかし、天司として自分を造った筈なのに、その力は全く信用されていない。それもそうだ。今の自分は空も飛べない。元素も操れない。身体も小さく、力もなく、天司を名乗るには心許ない。故に、ほんの些細な役目も与えられない。

ルシフェルさまに信頼されるためには、まず未熟な自分から脱し、天司としての自分を彼に認められなければならない。

そのために結果が必要だ。

天司としての自分を、あの方に認めてもらえるだけの何かを成さなければならない。未熟な自分を認めてもらうためには己の成長を目に見えるかたちで示す必要がある。

そして、思いついたことは、空を飛ぶことだった。

この背中にある一対の茶色い翼。空を飛ぶ天司として造られたけれど、未だに上手く翼を扱うことができなかった。飛べたとしても、ほんの数秒だけ宙に浮く程度だ。しかし、できないことをできるようになれば。一人前の天司のように、自由に空を飛べるようになれたのなら、彼も認めてくれるかもしれない。いつか、あの御方のために、翼を使って自由に飛ぶようになる。そうしたら、何時だって、何処に居たってルシフェルさまの元へ駆けつけることができるし、彼と共に何処にだって行くことができる。

そうだ。この翼があれば何処にだって飛んで行ける。ルシフェルさまと、共に。何処までも。先の見えない雲海を二人で駆け抜け、薄暗い雲の先にある、まだ見ぬ果てのない未知の世界を目指すのだ。雲に覆われた天の向こう。そのさらに奥には、かつてルシフェルさまが語ってくれた蒼く美しい世界がある。いつか、二人でその限りなく広い空を飛べた。そんな想像をするだけで期待に胸が膨らんだ。
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