忍たま
□二人で見上げるお月様
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三郎と雷蔵は学園長から御使いを頼まれた帰り道、町の茶屋に寄り、店主から今日の夜は月が綺麗なのだと聞いた。
そこで、長屋の屋根で今夜はお月見をしようかとなり、二人で一緒に団子を買って帰った。
夜になり、早めに食事と入浴を済ませた二人は長屋の屋根に上がってお月見を始める。夜闇に浮鮮明にかぶ月の下で、昼間に買った団子を食べつつ、他愛ない雑談を交わしながら笑い合う。
三郎は、柔らかな夜闇に包まれながら、雷蔵と過ごす楽しい一時に幸せを感じていた。
(雷蔵と一緒に月見が出来て幸せだ。)
鉢屋三郎は雷蔵と過ごす何気ない平和な日々を慈しんでいた。学園長の思い付きや一年は組のドタバタ劇に巻き込まれるのも楽しいけれど、こうやって雷蔵とまったり月を見上げる平穏な時間もまた彼にとっては大切なひとときであった。
これからもずっと雷蔵と共にいられたらどんなに良いだろうか。
鉢屋三郎は不破雷蔵のことを愛している。
いつから、彼のことをこんなにも愛しく思うようになったのかは、はっきりはわからない。しかし、三郎は昔から雷蔵の近くにいた。そして、誰よりも彼という存在を近くで見守ってきたのだ。そして、気が付いたら、雷蔵は三郎にとって、なくてはならない大切な唯一の存在となっていた。
ちょっと優柔不断なところもあるだけれど優しい雷蔵が好きだった。
屈託のない笑顔が好きだった。
優しい笑顔に何度も励まされた。
真面目なところも優しいところもお茶目なところも全部好きだった。
も隣で月を見上げて子供のように笑う雷蔵に愛しくてたまらない。これからも雷蔵と共にありたい。いつまでも二人で笑い合って楽しく暮らせたらどんなに良いだろうか。
しかし、それは無理なことだった。
いつしか、三郎の雷蔵への想いはキラキラとした優しい想いが歪なものへと変質してしまった。二人で一緒にいたい。雷蔵に優しくしたい。純粋な願いは、雷蔵の肌に触れたい。身に纏う衣服を剥ぎ取り、その全てを余すことなくこの目におさめ、肌を重ね合わせて熱を共にしたい、という欲望が混ざり会うようになった。
月を見上げていた雷蔵が三郎の方を向いて笑っている。寒さのせいか頬がうっすらと染まっている。今も雷蔵は三郎がどんな想いで見つめているのかを知らない。可愛くて可愛くて食べちゃいたいとはいうけれど、まさにそんな心境である。三郎にとって雷蔵の信頼を壊すような真似は最も恐ろしことなので「雷蔵を食べちゃいたい」という醜い欲望は笑顔の下に隠して知らんぷりである。
「雷蔵、顔が赤いぞ。寒いのか?」
「あ…いや」
素知らぬ顔で笑みを称えたまま、雷蔵の頬に触れる。雷蔵の柔かな頬は少し温かい。三郎が「熱いな」と呟いた声に、益々雷蔵は顔を赤らめた。
「外に居すぎたかな。そろそろ、部屋に戻ろうか」
「いや、別に、全然、大丈夫だ」
あんまり寒空にいるのも良くないだろうと思って腰をあげると雷蔵に止められてしまった。
「…雷蔵?」
三郎は首を傾げる。
「別に、寒いとか、そういうわけじゃ、ないんだ」
雷蔵の様子がおかしい。
「雷蔵?」
歯切れの悪い雷蔵の態度に首を傾げる。もう一度だけ名前を呼ぶと雷蔵が何かを決意したように口を開いた。
「僕は、三郎のことが…好きだ…」
彼の秘めた想いが、三郎を貫いた。
雷蔵の頬が熟れた林檎のように赤い。羞恥と緊張のせいか、体は小さく震えて三郎の顔を見ることもできずに下を向いてしまっている。その恥じらう姿は可愛らしくも、三郎の中に秘めた欲をぞくぞくと煽ってくる。
緊張してガチガチに強ばった体を抱きしめたい。うつ向いている顔を、こちらに向かせて唇に吸い付きたい。舌を伸ばして彼の咥内を存分に味わいたい。
けれど、月明かりの下で打ち明けられた想いは、何の下心もなく、純粋でとても綺麗で可愛らしいものだった。
三郎は何も答えることができなかった。
嬉しさよりも、戸惑いを覚えて恐怖した。
雷蔵は、なぜ突然このようなようことを告白してきたのだろうか。もしかすると、雷蔵は、三郎が雷蔵を愛する想いに知らず知らず感化されてしまったのかもしれない。