忍たま

□二人で見上げるお月様
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三郎と雷蔵は学園長から御使いを頼まれた帰り道、町の茶屋に寄り、店主から今日の夜は月が綺麗なのだと聞いた。
そこで、長屋の屋根で今夜はお月見をしようかとなり、二人で一緒に団子を買って帰った。


夜になり、早めに食事と入浴を済ませた二人は長屋の屋根に上がってお月見を始める。夜闇に浮鮮明にかぶ月の下で、昼間に買った団子を食べつつ、他愛ない雑談を交わしながら笑い合う。

雷蔵は、柔らかな夜闇に包まれながら、三郎と過ごす楽しい一時に幸せを感じていた。



(三郎と一緒に月見が出来て幸せだな。)



平穏な日々は少し退屈だけれど、こうやって三郎とまったり月を見るのも良い。

これからもずっと三郎と一緒にいることができたら良いのに。

不破雷蔵は鉢屋三郎のことが好きだった。

いつから、彼のことが好きだったのかは本人もよく覚えてはいない。気が付いたら、三郎は雷蔵にとって、なくてはならない大切な唯一の存在となっていた。

明るくて優しい三郎が好きだった。
器用に動く彼の細い指が好きだった。
自分と同じ顔をしているけれど、たまに見せる凛々しい表情に見惚れてしまうこともあった。

悪戯好きな子供のように無邪気笑う笑顔も大好きだった。

今も隣で自分に優しい眼差しを向けてくる三郎の視線にドキドキしてしまい、何だか気持ちが落ち着かない。意識してしまうと、頬が勝手に熱を持ち、心臓は忙しない。



「雷蔵、顔が赤いぞ。寒いのか?」

「あ…いや」



三郎は眉をさげて雷蔵そっくりな笑みを称えたまま、雷蔵の頬に触れる。「熱いな」と呟く声に、益々顔が熱くなるのを雷蔵は感じた。



「外に居すぎたかな。そろそろ、部屋に戻ろうか」

「いや、別に、全然、大丈夫だ」

「…雷蔵?」



ぎこちなく答える雷蔵に、三郎は首を傾げる。



「別に、寒いとか、そういうわけじゃ、ないんだ」

「雷蔵?」



すぐ目の前に三郎の顔がある。
そう意識しただけで身体中の体温が急上昇する。
相手は自分と同じ顔をしているのに。月明かりの下にいるせいか、普段以上にどこか優しく、かっこ良く見えるような気がする。慈しむような瞳を向けられてやけに胸の奥が甘く締め付けられる。

好きな人と月を見ているからだろうか。
月のせいだろうか。
うん、月のせいだ。


だって、美しい月は人の心を惑わせてしまうのだと何かの書物で読んだ。



「僕は、三郎のことが…好きだ…」



秘めた想いが、口から零れ落ちてしまった。

とうとう、言ってしまった。

頬が相変わらず熱い。羞恥と緊張のあまり三郎の顔を見ることができず、雷蔵は顔を伏せた。

三郎は何も答えない。

雷蔵は後悔した。軽率にこのような想いを伝えるべきではなかったのだ。口から出てしまったものは最早どうしようもできない。



「雷蔵」



長い沈黙の後にようやく三郎が口を開く。



「俺は雷蔵とは付き合えない」



それは、雷蔵の想いを拒絶する言葉だった。








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