忍たま

□雷蔵と三郎狐
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雷蔵とかくれんぼ@





ある時、雷蔵は友達と一緒に村の中でかくれんぼをしていた。

じゃんけんに負けた雷蔵が鬼役になり、松の木の下で目を閉じてしゃがむ。そして、何十か数を数えている間に、隠れ役の子供達は村のあちこちに散って隠れていった。



「もういーかい」

「もういーよ」



鬼役の呼び掛けに元気にこたえる声。

雷蔵が目を開くと、隠れ役の子供達の姿はどこにもなくなっていた。

僅か数十秒前と打って変わって、目の前には仲間が消えた空白の風景が広がっていた。

視界の端に農具を片手に移動する村の大人達がちらほら映ってはいるが、かくれんぼという遊びの世界にいる雷蔵にとって、遊びの世界外にいる大人は路傍の石ころや木片と等しい存在であった。


仲間たち全員が隠れて仕舞うことはかくれんぼのルールとして百も承知のことであるのに、それでもなお、先程までいた友達がみんな姿を消してしまい、誰もいない空白の拡がりの中に突然一人ぼっちの自分が放り出されたように感じてしまう。しかし、それもほんの一瞬だけのことである。雷蔵はすぐに気を取り直して隠れ役を探しに駆け出していった。
建物の屋内以外ならば、村のどこに隠れても良い。

しかし、鬼に見つかって名前を呼ばれてしまった子はその時点で終わり。

井戸の後ろ。大きな松の木。茂みの中。建物の外周り。

鬼は村中のあちこちを探して回らなくてはならない。

雷蔵は走った。

木の後ろ。樹上。茂み。井戸の後ろ。井戸の中。家々の陰。家畜小屋の中。

しかし、見つからない。

どこに行っても隠れ役の子が一人も見つからない。村中を走り回った雷蔵はヘトヘトである。

夕日も暮れて、周囲には誰もいなくなっていた。

いつの間にか、仕事をしていたはずの大人達まで消えて周囲には誰もいない。そこは物音がひとつも聞こえない静かな空間だった。地面には雷蔵の黒い影法師が不気味に伸びている。



何時もと同じ夕暮れ時の風景なのに、まるで別世界に迷い込んだような異様な雰囲気が雷蔵の心を不安にさせる。かくれんぼを始めた時に感じた、世界から隔離されたような心細さが何倍にも濃くなって甦ってきた。

足元に視線を向けていた雷蔵は影法師が一つ増えていることに気付いた。



「雷蔵、一緒に遊ぼう」



背後から声が聞こえて、振り返るとそこにはひょっとこのお面を付けた少年が立っていた。



「…きみ、誰? 村の人じゃないよね?」

「三郎」



短く答えると少年は雷蔵の手を取った。



「山に行こう。美味しい木の実がなる場所を教えるよ」

「え」


有無も聞かずに手を引かれて連れて行かれそうになり、慌てて足を踏ん張って抵抗する。掴まれている手も思いっきり振り払って、立ち止まった。



「ちょっと待った!僕はまだ行くとは言ってない」



手を振り払われた少年は、雷蔵を振り返って立ち尽くしている。お面を被っているので彼がどんな表情をしているのかは雷蔵にはわからなかったが、少年が何者であるかはおぼろ気に推測できた。

しかし、何を考えているのか、その意図までは掴めない。



「…お前、三郎と言ったね。もしかして、三郎狐かい?」



恐る恐る問いかけると、少年は黙って頷いた。


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