忍たま

□雷蔵と三郎狐
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雷蔵と子狐



あるとき、雷蔵は桑の実を取りに山に入った。

その途中の獣道で一匹の狐が倒れ伏せているのを発見した。小さな子供の狐である。



「…三郎、狐?」



この山にいる狐といえば、雷蔵は三郎狐しか知らない。恐る恐る声を掛けて近付いてみるが、子狐はピクリとも動かない。もしかすると死んでしまっているのだろうか。そぉっと近づいて触れてみたところ、温かく、微かに呼吸もしている。しかし、身体中が泥だらけで毛並みも荒れている。見たところ、目立って大きな傷はないようだが大変弱っているようだ。

一体、三郎狐に何があったのか雷蔵にはわからないが、傷付いて弱っているらしい子狐を放ってはおけなかった。一瞬、家に連れ帰って手当てしようかと考えたが、三郎狐は村人達の間で悪名高い悪戯狐だったので、弱った三郎狐を村に連れ帰って万が一他の人間に見つかった場合、トドメを刺されてしまう可能性がある。なので、連れ帰る訳にもいかない。

とりあえず雷蔵は、倒れている三郎狐を胸に抱きかかえて山をおりた。

山の麓に雷蔵の住む村があり、村の近くには清流が流れている。水辺にそっと子狐をおろすと、すぐさま村に飛んで帰った。自宅から軟膏と剃刀と桶、清潔な手拭い数枚に雷蔵が山から持って帰ってきた木の実などを幾つか拝借し、急いで子狐の元へ戻ってくる。

雷蔵には医療の知識はなかった。

しかし、友人に動物好きの者がおり、以前にその友人が怪我をした猫を手当てしているのを間近で見たことがあった。

その時に見た記憶を思い出しながら、手探りで治療するしかない。

まずはじめに子狐の体を詳しく検分し、後ろ足を怪我しているのを発見した。そして、傷があるだろうと思われる箇所の邪魔な毛を剃る。土や泥の汚れを落とすため、桶に水を汲み、傷口とその周辺を洗った。傷口を綺麗にしてやると、今度はそこに軟膏を塗ってやり、清潔な手拭いで傷口を圧迫しつつ縛ってやった。



「これで、よし」


ギュッと手拭いを縛り終え、三郎狐を見てみると、狐が顔を上げて雷蔵を見つめていた。

実は、三郎狐は体を水で洗われていたあたりから目を覚ましていた。


冷たい水が体に掛けられ、驚いてぱちくりと目を覚ましたのであった。見てみると、見覚えのある子供が一生懸命に三郎の傷口を見て慣れない手付きで四苦八苦しながら手当てをしていたので、寝たフリをし、その様子をこっそり観察していたであった。



「あ、ごめん。起こしちゃったね。傷口はもう暫く痛むだろうから、あんまり無理しないでね」



そんなことを露知らず、雷蔵は子狐に謝りつつ。葉っぱに包んだ木の実を差し出す。



「早く元気になってね」



子狐の前に木の実を置くと、雷蔵は手早く荷物を風呂敷に包んで村に帰って行った。


子狐は遠ざかる雷蔵の背中をいつまでも見つめていた。


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