忍たま

□雷蔵と三郎狐
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雷蔵とのっぺら坊





雷蔵が山に石榴を取りに行こうと来てみたら、石榴の木の根元に少年がいた。

歳は十くらい。雷蔵と同じ位の年頃のようだ。しゃがみこんでこちらに背中を向けている。気分が悪いのかと心配になって様子を伺ってみるが、少年は微動だにせずただ蹲っている。



「ねぇ、君。どうかしたの?お腹でも痛いの?」



心配になり声を掛けてみるが、返事がない。声も出せないくらい具合が悪いのだろうか。雷蔵は恐る恐る少年に近づいていき、背後から除き込むように再度声を掛ける。


「ねぇ、大丈夫?」


その瞬間、少年はぐるんと勢いよく背後を振り返って雷蔵をみた。



「うわあっ!」




振り返った顔に驚いて雷蔵は腰を抜かした。そこには何もなかった。目も鼻も口も眉も何の凹凸もないのっぺりとした皮膚が広がっているだけの顔。

尻餅を着いて呆然とのっぺらぼうを見上げる雷蔵。

次の瞬間、少年は高く跳躍し、雷蔵よりも遥か頭上の木の枝の上に移動する。上ったかと思うと、今度は枝から落ちた。地上に着地した少年の姿はいつの間にか狐へと変わっていた。狐はそのまま茂みへと姿を眩まし去っていく。

呆然と座り込んだままの雷蔵には、正直なにが起きたのかよくわからなかった。ただその場で放心状態で、狐の消えた茂みを見つめている。



「あ、そうか。僕は狐に化かされたのか…」



ぽつりと口から出た呟きは、山の静寂に溶けるように消えた。



狐に化かされた雷蔵は、その後いくつか石榴を取ると山を下り、村に戻った。

そして、家に帰り、母親の手伝いをしているとあっという間に日が落ちていく。

夕御飯の時にさっそく両親に山で狐に化かされた話をすると、それは三郎狐という山に棲む悪戯好きな妖狐だと言われた。

三郎狐は山に立ち入った村人に妖術で悪戯を仕掛けてくるので、最近は誰も山に入らないようにしているという。


雷蔵は、大根の煮物を咀嚼しつつ、表面的にはふむふむと大人しく頷きながらも頭の中で、次は山からアケビを取ってこようと考えていた。



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