黒駄文

□Ω一松×αカラ松
6ページ/6ページ






 長き渡る片想いが成就してから三日後。

 僕は朝からカラ松と映画を観に行った。『猫戦争』というファンタジー映画である。大変素晴らしい映画だった。その後、二人で牛丼を食べに行き、何となくホテルに入った。シャワーを浴びて、二人でベッドに転がって素肌を触れ合わせるととても幸せな気持ちになった。腕の中で笑う兄の温もりに涙が出そうになる。蕩けた声で戯れるように一松、一松と名前を呼ばれる。そんな甘ったるく幸せな雰囲気中、不意にカラ松から爆弾が投下された。



「なぁ、一松。この間、デカパン博士のところに行って俺達の相性を診てもらったんだ」

「え……」



 心臓が冷たくなった。

 僕とカラ松の相性は2%である。

 このロマンチストでポンコツなカラ松がその事実を知ってしまったら、どうなるか。 他人と自分の関係をロマンチックに捉えたり表現するのが好きで、 己の理想化した世界を行ったり来たりしがちなロマンチストな夢想家は 、 何らかの衝撃で甘い妄想から覚めると二人の関係を見直し始めるかもしれない。

 一番、最悪なのはこの恋から冷めてしまうパターンである。



「知ってるか。俺達の運命値」



 ドクン、ドクンと心臓が荒く鼓動を刻む。

 このポンコツが別れを切り出してきたら、どうしてやろうか。いまさら、僕がこの馬鹿を手放すことはできそうにない。まして一度手に入れたものとなると余計に手放せるワケがない。

 カラ松を抱き締める腕に力を込める。すると、カラ松も「フフン」と得意げに笑って僕の背中に腕を回した。



「聞いて驚け。なんと俺達の相性は100%だ! 俺とお前は運命の赤い糸で繋がったソウルメイトだったんだ!」



 相手が何を言っているのか一瞬、理解できなかった。何の反応も返さない僕にカラ松は怪訝そうな顔をすると、「ちょっと待ってろ」と腕の中から抜け出して素っ裸でベッドから出ていき、壁に掛かっている黒いジャケットのポケットから一枚の紙を取り出して戻ってくる。「ほら、見てみろ」と渡された紙を見ると、そこにはデカパン博士の所で診てもらったという診断結果が記載されていた。

 恋人の言うとおり、僕とカラ松の運命値は100%だった。

 この時に、僕は思い出した。

 昔、 僕がカラ松との運命値を調べにきた時に、診断結果が出て十四松が「良かったね!ゼロじゃないよ。一松兄さん」と笑顔で言ってくれたことを。あの時は、十四松が不器用に僕を慰めてくれているのかと思っていたけれど、そうではなかったのだ。あれは、本気で「良かった」と告げていたのだ。可能性はゼロではない限り、運命は自らの手で変えることができると、十四松は思っていたのかもしれない。

 そして、僕はアルファである実兄の運命をねじ曲げ、カラ松を手に入れた。

 仄暗い喜びに背筋が震えた。

 そうだ、カラ松はもう自分のモノだ。身も、心も、全て、彼の髪の一本から爪先まで自分のモノだ。

 自慢気に紙を突き出して笑う兄を抱き締めてベッドに組み敷くと、カラ松が僕の髪に。指を絡めておかしそうに笑う。



 愛おしげに僕を見上げる兄に、たまらなくなる。



「カラ松」

「なんだ」

「俺は、アンタしかいらない」

「そうか。俺もお前しかいらない。愛してるぞ。マイリルキャット」


 抱き締めて、唇を重ねる。

 足りない。足りない。足りない。もっと、僕を求めて。もっと、僕だけを愛して。僕は愛したいより、愛されたい屑なんです。多分、いくつになっても僕という屑はカラ松の愛情を独り占めしたいクソガキな大人なんですよ。だから、死ぬまでずっとガキなんかもイラネーと思っているし、カラ松が僕よりも優先するものを作ったら、大人げなく嫉妬してしまうかもしれない。嫉妬のあまり人体発火するかもしれないし、嫉妬に狂った化け物と化すかもしれない。だから、子どもとかも諦めてほしいです。それ以前に、実の兄を愛し、禁忌を犯してまで兄を手に入れた自分がまともに子供を育てられるとは思わないし、この優しい兄をいつまでも自分が独占していたいんです。まぁ、僕はスパダリやら優しい彼氏から最も遠い男です。そんな弟に愛されて、執着されて、運命まで歪められて、本当に御愁傷様です。

 でも、手放す気はサラサラない。

 ゴメンネ、カラ松。

 この先アンタのことはもう解放してやれそうにないよ。

 お前の運命はもう僕のモノだから。

 幸せそうに笑う兄の項に、思いっきり噛み付いてやった。




End
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ