黒駄文

□Ω一松×αカラ松
3ページ/6ページ




 足りない。

 足りない。

 何度抱いても、抱き足りない。

 何度射精しても、満たされない。

 体は疲れているのに、それでも僕はカラ松を抱き続けた。

 前から二回。バックで三回。

 アルファもびっくりな絶倫ぶりである。性に狂った発情したΩチンポを抜かずの中出し6連発したあとに、さらに冷めやまぬ熱を鎮めるために力なく横たわるカラ松の体に何度も何度も欲望をぶっかけた。何発出したかは覚えていないし、数えてもいない。

 普段の僕では長時間連続中出しセックスという淫欲を爆発させたようなセックスなんてとてもできなかった。オメガのフェロモンに引きずられているアルファのカラ松ですら疲労困憊し気絶したように意識を飛ばす激しいセックスだ。発情期でもない普通の人間ではとても耐えられないだろう。

 こんな性欲お化けのようなセックスは発情期のオメガだからできることだ。通常の自分なら二回射精したあたりで満足しているし、抜かずの長時間耐久セックスなんて体力的にも不可能だ。淫欲狂いの発情オメガの力を借りながら、アルファの兄をメスにするという執念だけでカラ松を抱き続けた。

 四つん這いにしたカラ松を後ろから突くのは視覚的に最高に興奮したし、さらけ出された無防備な項に思いっきり噛み付きながら、メスになれと呪いをかけ、前立腺をガンガン突き刺してやった。

 カラ松の項はおびただしい青紫色の噛み跡で埋め尽くされ、体はカラ松自身が吐き出した精液や僕がぶっかけた白濁まみれで、何度も何度も射精した後孔からはドロドロとした劣情が溢れ出ていた。

 カラ松を孕ませようとするかのように何度も何度も抱いた

 それでも、まだ抱き足りない。

 発情期の熱を利用しながらも体はヘトヘトで、しかし、「こいつを徹底的にメスにしなければ!」という執念だけで時間を無視して、貪るように夜通しカラ松を求めた。

 一晩中、声も出さなくなった死人のようなカラ松を、抱いて抱いて抱き潰して、夜が明けた頃にようやく精巣が空になった。

 疲労が溜まった体に鞭打って、人形のようなカラ松の上で、何も出ない自身の陰茎を支え持ち、自分で亀頭や尿道付近に刺激を与える。くすぐったさや気持ちよさ、痛みを同時に感じるが手を休まずに動かし続ける。やがて、ビリビリと痺れるような何かが出そうで出ないもどかしい感覚に身震いし、瞼の裏がチカチカと点滅し、ジンジンと熱い何かが駆け登ってきて背筋が震える。



「……ハァッ、ハァッ……きたねぇザーメンまみれのクソ松兄ちゃんを……潮吹きシャワーで綺麗にしてやるから、避けるなよ」



 プシャアアアアアっと勢い良く透明の水飛沫がカラ松の体に振り掛かる。

 長時間の荒淫の果てに潮を吹いた僕は、足腰がガクガクと震えてとても立ってはいられなかった。息も絶え絶えで体が宙に浮いているうなフワフワとした高揚感と心地良い倦怠感に包まれながら、カラ松の隣に倒れるように横になる。

 オメガのフェロモンを利用してアルファの兄を従わせて無理やり抱いた。
 泣きながら快楽に流されて喘ぐ兄に欲情し、何度も抱いた。

 隣で死んだように眠る兄は体内から精液が漏れ出るほど弟を受け入れ、体外では振りかかる潮を受け止めた。カラ松の全身は内側から外側まで僕がぶつけた欲で濡れそぼっていた。

 もし、カラ松がオメガだったなら、確実に妊娠していただろうなと想像する。

 しかし、カラ松はアルファだ。見知らぬオメガのフェロモンにペニスをおっ勃てて欲情するアルファで、この世のどこかに運命の恋人がいると夢見ているおめでたいアルファだ。

 僕はオメガなのに、カラ松の運命になれない。

 それどころか、彼の一卵性の弟で性の対象にすらなれない。なのに、カラ松は他所のオメガには反応するのだから、とことん報われない。



「カラ松……」



 僕の隣にいてよ。
 僕だけを見てよ。

 閉じた瞼に伝う涙の跡。そっと舌先で頬に触れ、涙の跡をゆっくり伝い上げてカラ松の目元にそっとキスをする。こうやって眠っているカラ松を眺めていると、愛おしくて大切にしてやりたいと思いつつも、いつも理不尽な憤りやめちゃめちゃにしてやりたいという加虐的な性衝動が心をざわめかせていた。しかし、今は罪悪感と満足感、そしてカラ松への切なく静かな想いが心の中に満ちていた。カラ松にピッタリ身を寄せながら、僕の意識はまどろみの中へ落ちていった。





◇◇◇





 再び僕が目を覚ました時、隣のカラ松はまだ眠っていた。酷く喉が乾いたので冷蔵庫から水の入った1Lのペットボトルを取り出して半分近く一気飲みした。部屋の隅に転がっている目覚まし時計を見ると、午後の昼下がりだった。夜通しセックスして明け方に眠りついた僕達は、グースカと昼いっぱいまで寝こけていたらしい。ペットボトルの水を飲んで喉の渇きが癒えたところで、眠っているカラ松の元へ向かい、再びペットボトルの水を口に含んで、半開きの口に水を流し込んでやる。すると、カラ松も喉が渇いていたのか従順に水を飲み込んでいく。繰返し水を与えていると、カラ松が眠そうに目を開けた。



「んん……いち、まつ?」

「……おはよ。カラ松。水、飲める?」

「…………」



 ペットボトルを手渡そうとしたが、カラ松はぼんやりとした瞳で小さく首を振った。



「もっと水、欲しい?」



 今度はコクンと頷いた。

 引き続き、僕はカラ松の口に水を移す。カラ松は自ら口を開いて貪欲に水を飲み干していく。そのうちに僕の口にぬるりと舌を入れてきたので、カラ松に応えるように互いに舌を絡めあい、布団の上で抱きしめ合った。

 カラ松は起きて早々にまた僕のフェロモンに当てられて発情状態に入ってしまったようだ。

 自分以外の他者によって問答無用で発情状態に引き摺り込まれてしまうアルファは本当に哀れだなぁと、差し出された乳首にむしゃぶりつきながら他人事のように思った。

 お互い素っ裸で、布団の上に座っている僕に跨って膨張した熱を受け入れる兄。

 至近距離でカラ松と見つめ合い、下半身を繋げたまま、唇を重ね合わせて互いを求め合う恋人セックスをした。AVを観て何度も妄想したシチュエーションである。自分には一生無縁だった筈の憧れの対面座位でのラブラブセックス。さらにカラ松からキスを仕掛けられて浮かれ切った脳味噌は、彼の柔らかい舌を味わいながら腕の中の兄が自分だけの恋人であるような錯覚に陥った。熱っぽく正気を失っている瞳を見つめ返しながら、突き上げまくり、愛し合う恋人のような至福の時を味わう。

 あぁ、好きだ。好きだ。好きだ。好きだ!



「カラ松ッ、カラ松カラ松カラ松!!」



 カラ松を強く抱き締めながら左手で彼の頭を僕の左肩に押し当てる。




「カラ松。俺の項、噛んで」

「んっ、ふっ……ふぇ?」

「いいから、噛めッ」



 快楽に溺れつつ、戸惑うカラ松をさらに強く肩口に押し付ける。

 今まで僕は何度もカラ松の項を噛んできた。しかし、オメガの僕にはカラ松の運命の相手どころか、己の忌まわしい運命でさえ断ち切ることができない。ならば、せめてカラ松の手によって僕を呪われた運命から解放してほしかった。

 実の兄に恋をした僕のおぞましい片想いはけして祝福されるべきものではない。近親相姦の重さに苦しみ、抗い、のたうち回った青春は暗黒色に染まってしまったけれど、それでも長年募らせてきたカラ松への狂おしい想いを、つがいだとかアルファだとか見知らぬ他人にあっさり上書きされることは許せなかった。禁じられた叶わぬ恋に絶望し、諦めたいと思ったこともあるけれど、結局僕はカラ松が好きで、兄への想いを忘れたくなかった。

 いまさら、ぽっと出の他人に長年の秘めた恋を遺伝子レベルで消されることが許せないのだ。



「運命なんか、いらないッ。……お前しか、いらない!」



 思いの丈を込めて下から突き上げる。
 耳元で息も絶え絶えなカラ松の乱れた吐息が聞こえる。

 首にそっと舌があてられる。吸血鬼のように首筋にゆっくりと舌先を這わせながら、項に辿りつき、やがてカラ松の歯が皮膚にくい込むのを感じながら、勢い良く愛する兄の体内に欲を放った。


 セックスのどさくさに紛れてカラ松をつがいにした。



 その後はひたすらセックスをした。水飲んではセックス。体を拭いて、軽く食事を取ってはセックス。少し休んではセックス。セックス。セックス。昨日と同じように一日中カラ松を抱いていた。

 隔離小屋に入って三日目。その日もまた1日中セックスをし、発情期が過ぎ去った四日目の夜明けとともにようやく腕の中からカラ松を解放し、泥のように眠った。

 慈しむように髪を撫でられる感覚に目を覚ました。

 カラ松だ。カラ松が、僕を抱き締めて頭を撫でている。カラ松に抱き締められているため、やつがどんな顔をしているのかわからない。僕のヒートサイクルは既に過ぎ去っているので、カラ松を無理やり発情状態にすることも、なし崩しにセックスになだれ込ませることもできない。

 今、僕を抱きしめているのはただの兄としてのカラ松だった。

 僕がオメガフェロモンを利用して無理やり犯したアルファの兄。

 どうして、彼は僕を抱き締めてこんなにも優しく僕の髪を撫でているのだろう。



「……カラ松」

「ん、お目覚めかい? ねぼすけボーイ」



 ソロっと目線を上げて名前を呼ぶと、クソみたいに格好つけた兄が僕を見る。



「お前さ、怒ってないの?」

「何を?」

「何をって……お前を無理やり抱いたこと」

「一松……」

「ずっと、ずっと前からカラ松のことが好きだった」



 僕を抱きしめてくれているカラ松の胸に顔を寄せて埋める。



「俺だけを見てて。他のやつは見ないで。カラ松が好きだ。好き。大好き」

「一松」



 チュッと唇が重ね合わせられる。



「お前がいるのに、他のやつらに目移りするワケないだろう。マイ・スイート・ハート」



 は? 今、なんて?



「一松も起きたし、そろそろ家に帰るか」



 ぐしょ塗れの布団から身を起こしたカラ松は、立ち上がろうとしてよろけてまた布団に逆戻りする。



「……腰が痛くて立てない」



 真っ赤な顔を枕に埋めて、情けなく震えた声で言った。





◇◇◇




 部屋の隅に投げられた服を身につけて、立てないカラ松を背中におぶって外に出る。時間帯は既に夜中で、家の中には人の気配がなく、夜の静寂に満ちていた。

とりあえず、僕とカラ松は真っ先に風呂場に向かった。

 服を脱いだ兄の体に思わず、見惚れてしまった。散々抱き潰された体にはキスマークや歯型があちこちに付いて酷い惨状である。それを僕が付けたのだと思うと酷く心が満たされた。

 風呂場に入って、体を洗う前にカラ松の中の白濁を掻き出した。

 指を中に挿れると、声を押し殺したカラ松から甘く乱れた吐息が漏れでて、もっと声を出させたいと燃えてしまい、多少時間を食ってしまった。僕から仕掛けたとはいえ、カラ松も「気持ちいいっ」「もっと」と煽ってきたので、二人とも同罪である。流石に家族の寝ている家の中で挿入はしなかったものの、カラ松のメススイッチを指で責めまくって一回、今度はカラ松が僕にヘッタクソなフェラして口内射精して一回と、それぞれ一回ずつイッてから体を隅々まで洗って風呂に浸かってから浴室を出た。


 それから、発情期の間ろくに食事も取らずにセックス漬けだった僕達は、飢えを満たすためにインスタントラーメンを作って二人で食べた。ちなみに、立てないカラ松の代わりに僕がラーメンを作った。美味しい、美味しい、セラヴィー!と言いながら喜んでラーメンを啜るカラ松を見て、僕も嬉しくなる。しかし、不意打ちで「マイスイートラバー」と呼ばれて鼻から麺が飛び出すかと思うくらい驚いた。

 マイスイートラバーって…… my sweet loverのことだろ? 所謂、恋人って意味だろ?

 さっきも思ったけど、コイツ何考えてるの?




「あのさ、お前と俺って恋人なの?」

「……え、違うのか?」



 ラーメンを啜りながら恐る恐る問い掛けると、カラ松は不思議そうに首を傾げる。その目はユラユラと不安げに揺れており、カラ松の動揺が手に取るようにわかった。



「俺達、あの時つがいになっただろ? 何で、いまさらそんなこと言うんだ?」



 嘘だろ……。



「お前は俺の兄貴で、俺はお前の弟で……」

「そんなことはわかっている」

「じゃあ、何で自分を犯した弟相手に……」

「それは俺とお前がDestinyだからさ」



 格好つけたクソみたいな顔でバーンと銃を撃つ素振りをして決めポーズを取っていた。

 何だそれ。俺と、お前が運命?

 んなワケねーよ。一卵性の実の兄弟である俺とお前の相性は2%だぞ。2%。

 コイツは、僕をつがいにしてしまったから偽りの恋人ごっこをしてくれるというのか?

 そんなもの愛どころか優しさでも何でもない。残酷な同情や反吐が出そうな偽善でしかない。

 思いっきり罵ってやろうとカラ松を睨み付ける。

 しかし、相手の瞳に映る熱は本物だった。



「愛してるぞ。一松」




 幸せそうに愛を伝える兄に、スッと腹の底が冷えていくのを感じた。

 自身が犯した罪に気付く。

 アルファであるカラ松はオメガの僕を噛んだことで彼の脳が僕をつがいだと誤認してしまった。

 カラ松の意志を無視して、兄の運命をねじ曲げた僕は、彼を手に入れる代わりにカラ松の心を失ってしまったのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ