黒駄文

□魔獣の牙
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「……カラ松、気持ちいの?」



 恐る恐る尋ねると、カラ松の首がコクコクと上下に揺れる。



「いちまつの、ゆび、きもちぃ……」



 ふわふわとした夢見心地な声で告げられ、心臓をキュンと貫かれる。



「うれしい」

「は……」



 なにそれ?嬉しいって、どういうこと?というか、煽るのやめてくれませんかね。せっかく、我慢しようとしていたのに……。

 カラ松が、あんまりにも幸せそうに言うから



「……じゃあ、もっと気持ちよくしてあげるよ」



 白濁はあらかた掻き出し終えていた。

 埋め込んでいた三本の指で、先ほど掠めたしこりをゴリゴリと思いっきり突き刺した。



「あっ!!ああぁあっ!!!」



 三本の指を食んだ蕾が激しく収縮し、カラ松は全身を震わせて絶頂を迎えた。

 カラ松は手を付いていた泉の淵に崩れ落ちるように身体を預けた。その際に、中に入っていた三本の指が抜けた。荒くなった呼吸を落ち着かせようとしているカラ松に、背中から腰に腕を回して自分の方に引き寄せて抱き締める。背中の翼もカラ松の意志に従ってか、大人しく一松のに抱き締められている



「からまつ……」



 すっかり蕩けた表情のカラ松の首筋に舌を這わせて、足に高ぶりを擦り付ける。



「からまつ……」



 ごめん。ごめんなさい。我慢しようとしていたのに……。純粋に後処理をしていただけなのに、僕は我慢できませんでした。犯されてボロボロの恋人に盛るとか僕は悪魔か畜生か。……あ、悪魔に属する畜生でしたね。長年、我慢の子をしていても寸止め紛いの現状は非常に辛いんです。はい、言い訳ですサーセン。こんな根っからの悪魔が受肉して天使になろうとしていたとかすっげー嗤える。股間が痛い。でも、カラ松に嫌われたくない。我慢できない。怖い。傷付けたくない。ごめんなさい。ごめんなさい。

 欲望に忠実な悪魔の自分。
 欲望を堪えようとする天使の自分。
 自分を嘲る自分。
 そんな自分を冷静に見つめる自分。
 カラ松にすがる自分勝手な自分。

 一松の思考が熱に浮かされたように散り散りになり、ぐちゃぐちゃに掻き乱れる。



「カラ松……ごめん……」



 赦して。

 拒絶しないで。

 カラ松を抱き締める手にソッと手が重ねられた。



「いちまつ。指じゃなくて、おまえがほしい」

「え」

「俺の身体は穢れてしまった。……そんな俺が、お前に抱かれる資格はないのかもしれないが……一度だけで良いから、最後にお前に抱かれたい」



 ……さいご?



「は?……最後って何?勝手に決めないでよ」




 恋人が強姦されたからといって捨てようだなんて、そんなこと考えてすらいなかったのに、一体コイツは何を言っているのか?



「俺、お前を手離すつもりはサラサラないんですけど。それとも何?俺、そんな薄情なヤツだと思われてたんですかね?」



 普段、カラ松が歌うように告げる愛の言葉が恥ずかしくて、無視したり、胸倉を掴んで無理矢理だまらせたり、素っ気ない態度をとってきたけれど……まさか……。

 もし、そう思われていたのなら……ショック死する。

 しかし



「違う。俺が、勝手にそう思っただけだ」



 そんな一松の杞憂はあっさり吹き飛ばされた。



「いつかお前にこの身の全てを捧げると約束したのに……俺はその約束を守れなかった。約束を破ったんだ」



  一松以外の者に抱かれて、二人の約束を守ることができなかった。

 背後から抱き締められていたカラ松が、身を捩って一松と向かい合う。



「そんな俺でも、お前は許してくれるのか?」

「許すとか許さないとか関係ない」



 寧ろ、許しを乞うのは自分の方だ。

 堪らない気持ちになって、そう口から出かけた言葉を飲み込み、凛々しい眉尻をさげて大粒の涙を溢す恋人を正面からおもいっきり強く抱き締めた。




◇◇◇




「じゃあ、挿れるよ」



 カラ松が頷いたのを確認してから一松はズボンを下ろして硬くみなぎったを性器を取り出す。手を添えて、割れ目の間に潜んでいる秘部に、ゆっくりと挿入を開始する。

 初めて体験する性行為。

 今まで想像の中で何度もシミュレーションしてきたけれど、実際のカラ松の中は想像以上に気持ち良かった。柔らかくて温かったな内部に包まれながらも、締め付けられ、膝から崩れてしまいそうな衝撃が一松を襲った。ちょっと気を抜くだけで、どこか別の世界に連れて行かれそうな感覚に気を引き締める。
 ほんの少しでも爆発しそうな衝動を抱えたまま、一松はゆっくりと腰を動かした。



「……カラ松、痛くない?」

「はぁっ……はぁ……痛くない。気持ちいいよ。いちまつが、おれのなかに入ってるんだ……すごく、うれしい。……なぁ、いちまつは?お前は……平気か?」



 嬉しそうに、でも微かに涙混じりで震える声に、胸が苦しくなる。
 同時に、自分を気遣ってくれるカラ松の優しさに愛しさが沸き上がる。



「……大丈夫。すごく、気持ち良いよ」



 一松はさらに腰を密着させ、前後に出し入れする間隔を短くした。



「あっ……いちまつっ……」

「からまつ、からまつ、からまつ!!」



 目眩がしそうなほど熱く蕩けるカラ松の体内が、一松をきゅうきゅう締め付ける。目の前が段々ぼやけてきて、意識の糸を必死に手繰り寄せた。
 二人の結合部分から卑猥な音が聞こえ、自分の中の高ぶりが頂点に達しようとしている。



「からまつっ!好きだ!」



 先ほど見つけたしこり――前立腺めがけて勢いよく腰を打ち付ければ、カラ松が一際大きく啼いて身体を痙攣させる。同時に、締め付けが一際キツくなり、一松は勢いよく射精した。

 二度目の絶頂を迎えるカラ松の体内へ射精しながら、目の前の首筋に顔を埋めて、さらけ出された項に獣のように噛み付いた。








◇◇◇






 くたりと泉の淵に身体を預けて、気を失ってしまったカラ松の身体を清め、自分が放った精液を掻き出してから湖から出る。

 カラ松を横抱きにしたまま、湖の近くに建っている森小屋へと向かう。この小屋は、使い魔の猫達を管理するケット・シーが代々利用してきたもので、今は小屋も湖もこの森の全てが一松のものである。

 濡れた身体を拭いてやり、一松の持っている寝間着に着替えさせてベッドに寝かせる。ついでに自分も濡れた服を着替えると、カラ松を小屋の中に残して外に出る。
 家の外には既に猫達が集まって一松を待っていた。



「…じゃあ、始めようか」



 一松の足元に紫に光り輝く魔方陣が出現し、猫達の目がキラリと光る。

 一松の足元の魔方陣がみるみる周囲に拡がっていき、一松を中心に使い魔である大勢の猫達と力を合わせて森全体に強力な結界を張り巡らせた。これで他の魔物達は一松の森に入ってくることができない。この森は強力な魔力を持つ純血悪魔さえも足を踏み入れることができない領域となった。

 ケット・シーには自分たちだけの絶対不可侵領域を作る能力があった。

 現在のケット・シーは悪魔に属する魔獣であるが、元々は人間の世界で自分たちだけの王国を作って暮らしていた猫の王様にして猫の妖精である。しかし、中世の時代に人間界で魔女狩りが行われ、猫たちも魔女の使いとして迫害の対象となり、多くの同胞達が殺された。その惨状に心を痛めた当時のケット・シーは仲間を引き連れて人間界から魔界へと逃げ込み、それから悪魔に属する魔獣として魔界で暮らしている。

 ケット・シーの不可侵領域を作る力は一松にも受け継がれている。

 元々が争い事が苦手な妖精ゆえに、おそ松のような力に物を言わせるような圧倒的な強大な力や、トド松のように誰かを魅力し惑わせるような魔性の力は持たない。
 しかし、一松は獣並みの身体能力の高さや絶対不可侵領域の能力を持ち、さらに主に忠実な多くの使い魔がいる。

 結界を張り終えて小屋に戻った一松がカラ松の眠っている部屋に入ると、ベッドの上でカラ松が安らかな寝息を立てていた。

 カラ松を起こさないように物音も立てずにソッとベッド脇のサイドテーブルの引き出しを探る。

 これから先の一松は、堕天させられ神の加護を失ったカラ松を守っていくのだ。

 聖なる力を失った堕天使は無力である。

 魔界に堕ちた天使は
 悪魔の玩具にされて壊されるか
 淫魔に死ぬまで凌辱されるか
 魔獣の餌になるか

 天使を嫌う魔族達に散々弄ばれた末に殺されるのだ。悲惨な結末しかない。

 しかし、カラ松には一松がいる。
 カラ松は一松にその身の全てを捧げ、一松もカラ松に永遠を誓った。カラ松はもう一松の物である。誰にもカラ松を好きなようにはさせない。

 もう二度と

 おそ松にだって手出しはさせない。

 誰が来ようとも守る。

 どこまでも無邪気で残酷な悪魔や
 自分本位の快楽主義の淫魔
 血肉に飢えた魔獣共に
 天使を敵対視する魔族共

 そして

 堕天したカラ松を殺しに来るだろう、カラ松の仲間……神に仕える裁きの天使たち。

 大丈夫、誰が来ようとも守るから。

 だから



「どこにも行くなよ……」



 強気に呟いてみたものの、弱々しい声になってしまった。

 どこにも行かないで。
 ずっと、傍にいて。

 すがるような思いを込めて、眠るカラ松の首に紫の首輪を嵌めた。


End.
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