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□君はきっとずっと気付かないまま
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※棗→←蜜柑←☆☆
「あっ……あのな、ウチ……棗の事が、好きなんや」
頬をまるで林檎のように真っ赤に色付かせ、日向君に対する想いを友人である私に告白する事への照れからか緊張した声色で蜜柑はそう告げた。
「うん、知ってるけど?」
「えぇ!?」
恐らく蜜柑からしたら一世一代の告白に私は事もなさげにさらりと答える。私のその反応に、蜜柑は驚愕したように目を丸くした。
「なんで知ってるん!?ウチ、まだ蛍にも誰にも言ってないんやで!」
「だって、蜜柑ってば分かりやすいんだもん」
あんなの見てれば誰だって気付くよ、と付け加えると蜜柑はますます熱を帯びていく頬を少しでも抑えようと両手を添える。そんな蜜柑の姿に可愛いなぁと思わず心が和んだ。その可愛いらしい態度を引き出した理由が日向君なのが少し気にくわないけど。
「う〜〜〜……ウチはそんなに分かりやすいんか……」
それに、私はずっと蜜柑の事を見てきたから。思わず心中に浮かんだその言葉を飲み込んで、私は蜜柑に笑顔を向けた。
「ねぇ、蜜柑」
「ん?なんや?」
「きっと日向君も蜜柑のことが好きだよ」
「………うんっ。そうやったら、いいなぁ」
えへへ、と花が咲いたようにふんわりと笑う蜜柑に胸がきゅうっと締め付けられる。もしも、私が男の子だったらって今までどれだけ思って来たことだろう。仮に私が男の子でも、蜜柑と日向君の間に入り込めないのは分かっている。だけど、思うの。今蜜柑が日向君に対して照れたりドキドキしたりするのと同じように、少しは私の事を意識してくれたのかなって。そんなこと、考えるだけ虚しいのも分かっているけど。
「なーなー!☆☆は好きな人おらへんの?」
「えっ………」
蜜柑から不意に寄せられた質問に、思わず少し動揺してしまう。
「その反応はおるんやな!ねーねー誰なんっ!?」
「ちょっ、ちょっと蜜柑っ……」
「教えて!ウチも☆☆の恋を応援したいねんっ!!」
真っ直ぐにこちらを見据えて純粋にそう告げる蜜柑にまた、胸が締め付けられるような感覚を感じた。ねぇ、蜜柑。私が好きなのは蜜柑なんだよ。そう言ったら、アナタはどうする………?
「ハッ……まっまさか☆☆は棗の事が―――「それは無い」
言い淀む私に変な想像をしたのか、途端に顔を真っ青にする蜜柑の言葉を遮って私はきっぱりと言い放つ。即座に否定したからか、蜜柑はすんなり、そうみたいやなとホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ誰が好きなん?そうや!ウチ、☆☆とルカぴょんってお似合いやと思ってたんや!ルカぴょんはどうなん?」
「乃木君はそういうんじゃないよ……」
乃木君も蜜柑の事が好きなのに私なんかとお似合いだなんて言われて、彼も随分と不憫だなぁと内心同情する。
「☆☆はホンマに誰が好きなん!?」
「内緒」
「えぇ〜〜〜っ!!ケチ〜〜〜っ!」
蜜柑は不満気に唇を尖らせる。
「ほら、ホワロンあげるから許して」
「なっなんやねん!人をモノで釣って……!!」
「いらないの?」
「………いります」
きらきらと瞳を輝かせてホワロンを受け取る蜜柑に思わずくすり、と笑みが零れた。幸せそうに目を閉じてホワロンを咀嚼する蜜柑に私は声を掛ける。
「ねぇ、蜜柑。好きだよ」
「ウチも☆☆が大好きや!!」
笑顔で無邪気にそう答えるアナタはずっと私が言った"好き"に込められた本当の意味に気付かないのだろう。
君はきっとずっと気付かないまま