泡沫の長夢

□お兄さんと私 9
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どれくらいそうしていただろう。お兄さんの腕に包まれてしばらく経ち、気持ちが落ち着いてくると、今度は沸騰しそうな程に体が熱くなってきた。


(てか、私……さっき、お兄さんと……っ!!)


つい先程の出来事を思い出すと大声で叫びたい衝動に駈られる。いきなりの展開すぎて、頭がついてきてくれない。ぐるぐるといろんな思いやら感情やらが巡って大混乱している。
訂正、ぜんぜん落ち着いてなどいなかった。


「……姫」
「うあっ!?は、はいっ!!」


そんな中でお兄さんに名前を呼ばれるものだから、私は驚いて思わず変な声を上げてしまった。それがまた恥ずかしくて私の顔はトマトよりも赤くなってるだろう。今なら火でも起こせるんじゃないかってくらいに、全身が熱かった。


「なんでそんな驚くんだよ」


クスクスとお兄さんが小さく笑う。穴があったら入って埋めてもらいたい。


「だ、だって、お兄さんがいきなり呼ぶから……」
「名前」
「え?」
「もう分かるだろ?俺の名前」


お兄さんが私の顔を覗き込んでくる。距離があまりにも近くて、つい体を引いてしまいそうになったけど、お兄さんの腕にしっかりと包み込まれてるからそれはできなかった。


「え、えっと……アヴィ、さん」


戸惑いがちにお兄さん……アヴィさんの名前を呼ぶと、アヴィさんは満足そうに笑って、私の額にキスをした。


「っ!」
「顔真っ赤だな」
「……!!だ、だってお兄さんがっ…」
「名前」
「う……えと、ア、アヴィさんがキ……」


キスするから、と言いかけて先程の光景を思い出して言葉が途切れる。


「俺が……なんだ?」


アヴィさんは絶対にわかっているはずなのに、意地悪にもそんな質問をしてきた。私はあちこち視線をさ迷わせてうーだのあーだの言葉にならない声しか出せなかった。


「……で、俺がなんだって?」
「うう……ア、アヴィさんのいじわるっ……」
「お、おい泣くな!悪かったよ……少し意地悪しすぎた」


ついに耐えきれなくなって泣き出してしまった私に、アヴィさんが焦りだす。私を抱き締めて、いつもみたいに頭を優しく撫でてくれる。


「お前はなんていうか……ついいじめたくなるんだよな」
「え……ひ、ひどい……!」
「よく言うだろ?好きな子ほどいじめたくなるって」
「……、……!?」
「俺は自分で思っている以上に、お前に惹かれているみたいだな」
「え…?え…!?」
「ここまで言ったら、さすがのお前でもわかってくれるだろ?」


体を少し離してアヴィさんの顔を見上げると、アヴィさんの瞳が優しく細められ、頬がほんのりと赤くなっていた。その表情が、その言葉が意味することとは……


「あ、アヴィさん……」
「なんだ…?」
「私は…アヴィさんを……、す、好きでいて……いいですか?」


アヴィさんから見たら私はまだまだ子供で、ぜんぜん釣り合わないかもしれない。それでも、私は彼の隣にいたかった。つらい思いを決して誰にも見せなかった彼の支えになりたかった。彼を……守ってあげたい。


「……俺はお前を手離す気はないんだけどな」
「アヴィさん……」
「だから、覚悟しておけよ?」
「……!」


そう言うとアヴィさんはまた私にキスをしてきた。 決して離さないと言わんばかりに、息継ぎの合間も許さないくらいに、深く深く口付けてきた。




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