泡沫の夢
□ぬくもりに包まれる
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ふいに彼に抱きしめられて、あぁ疲れてるんだなぁ、と他人事のようにぼんやり考えていた。幼子のように優しく背を叩かれ、悲しくもないのに涙がにじみ出てきた。……ちがう。本当はずっとつらかった。泣きたかった。その感情を閉じ込めることだけが上手くなって、心の奥底で凝り固まったまま、ずっと残っていた。
癒し方を知らず、追い詰めることだけを覚えていって、苦しくなるから心を閉じ込めて、溢れ出そうになるものに無理やり蓋をして押し込めて……疲れることさえ、忘れてしまった。
(つかれたなぁ……)
心地よい人肌のぬくもりに、心がゆっくりと満たされていく。奥底に凝り固まっていたものは、いつの間にか溶けて消えてしまっていた。
(あったかいなぁ……)
ゆったりと刻まれるリズムが、眠気を誘ってくる。このまま眠ってしまいたいけど、まだこのぬくもりを感じていたくて、キュッと彼の服を掴んだ。すると、耳元で小さく笑う声がした。
「……ゆっくり休めよ。明日また元気な姿を見せろ」
その言葉を最後に、私の意識は柔らかな夢の中へと沈んでいった。