泡沫の夢

□確かな願い事
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「ささのはさらさら のきばにゆれる」
「…なんだ?その歌」
「七夕の歌だよ」
「タナバタ?」
「こっちだと星祭りがそれに当たるのかな?」
「へぇ…」
「懐かしいなぁ…。よく短冊にいろんな願い事書いてたっけなぁ」


七夕とやらの行事……元いた世界を思い出すように、姫は遠くを見つめていた。
その瞳に俺は映っておらず、急に不安な気持ちが襲ってきた。


「…………なぁ、姫」
「うん?」


元の世界に帰りたいのか?


そんなことを尋ねて、いったい俺はどうしたいんだろう。仮に帰りたいと彼女が答えてしまったら、俺はいったいどうすればいいのだろう。
出かかった言葉は音にならず、代わりの言葉を探そうにも何も出てこなかった。変に沈黙の時間が続いてしまったが、それを破ったのは姫だった。


「……あのね、アヴィ」
「…なんだ?」
「今年の願い事なんだけどね……アヴィに叶えてほしいの」
「……俺に?」


ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。彼女がもしも帰りたいと言ってしまったら、もしも彼女がいなくなってしまったら…………そんな最悪な考えが頭を過ぎる。離したくないと、彼女を捕らえようと腕を伸ばすよりも早く、姫は俺の方に1歩歩み寄り、背伸びをして俺の耳元に口を寄せた。


「……!」


そして囁かれた小さな願い事。俺はそれに答えるように……俺も同じ想いだと告げるように、しっかりと彼女を抱きしめた。


「そんなの、当たり前だろ」
「ふふ、絶対だよ」
「あぁ」


ずっと傍にいさせてね。

その願いを確かな約束へと変え、絶対に違えることはないと誓いを立てる。ふと視線が絡み、そのまま互いに引き寄せ合い…………2人の影が重なるのを、星だけが見ていた。




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