泡沫の夢

□過去の光の中で旅をする
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ふと窓の外を見たら、とても美しい星空が広がっていた。宝石箱をひっくり返したような、とよく言うけれど、今日の星空はまさにその表現がぴったりだった。一つ一つの星が宝石のように煌めいていて、思わず溜息が零れるほどに美しかった。
星空に見とれていると、部屋の扉が2、3回ノックされた。こんな時間に誰だろう、と不思議に思いながら扉を開けると、鮮やかな赤が視界に飛び込んできた。


「良かった!まだ起きてたか」
「ティーガ君?どうしたの?こんな時間に」


赤い色の正体はティーガ君だった。昼間の時と変わらずに元気な彼は、私の手を掴むとニカッと明るく笑った。


「今日星がすっげぇ綺麗だからさ!外に見に行こうぜ!」
「え?い、今から!?」
「当たり前だろう!星は夜しか見れねぇんだから」
「それはそうだけど……」
「早く行こうぜ!」
「あっ…ティーガ君!」


私の返事を待たずに、彼は私の手を引いて外へと連れ出した。私はされるがままに彼の背中を追いかけるしかなかった。





夜だからさすがに遠出することはなく、城から少し離れたあの花畑でティーガ君はゴロンと寝転んだ。


「ほら、お前も早くこうしろよ。星がよく見えるぜ」
「う、うん……じゃあ」


花畑に寝転ぶなんて、まるで子供に戻ったみたいで少しワクワクとした。ティーガ君の隣に横になって空を見上げる。


「わぁ……!」
「なっ!すげぇだろ?」
「うん、すごい……!」


そこには、視界いっぱいに満天の星空が広がっていた。窓から見ていた時とは比較にならない程に、壮大で美しかった。ひたすらに言葉も忘れて見つめていると、だんだんと星空に包まれているような浮遊感みたいなものを感じてきた。
その時、ふとあることを思い出した。


「今見てる星の光って遠い過去のものなんだよ」


星のことは特別に詳しいわけではないが、そのことだけは不思議と印象に残っていた。


「遠い過去ってどういうことだ?」
「えっと……星ってずっと遠いところにあって、その光が地上に届くのに何万年も何億年もかかるんだって。だから、今見てる光はずっと遠い過去のものなの」
「……ってことは、オレ達は今、過去にいるようなものなのか!」
「ちょっと違うけど……でもそういうことなのかな?」
「すっげぇ!!」


ティーガ君の瞳が星空に負けないくらいに輝いていた。なんだか子供みたいで、私はついクスリと笑ってしまった。それに気づいたティーガ君が、なんだよ、と少し不機嫌そうに眉を寄せていた。


「ごめんね、なんでもないよ」
「……つーか、オレじゃなくて星見ろよ」
「うん」


少しだけ頬が赤くなっていたことに気づかないふりをして、私はまた星空へと視線を戻した。

これだけのたくさんの光が全部過去のものなのだから、本当に不思議な感覚になる。なんだかまるで……、


「なんだか時間の旅してるみたいだよな」
「え……?」


そしたらティーガ君がまったく同じことを呟いたから、一瞬心を読まれたのかと思って私は驚いてしまった。


「なんだよ……そんな変なこと言ったか?」
「ううん、そうじゃないよ。私も同じこと考えてたから」
「……!そうか……やっぱそう思うよな!」


ティーガ君も私が同じこと考えてたと知ると、少し照れくさそうにしながらも満面の笑顔を見せてくれた。私の肩を抱き寄せて、二人で寄り添いながら静寂に包まれる。

遠い過去の光の中で、私達は束の間の時間の旅を眺めていた。




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