泡沫の夢

□遠い過去の贈り物
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「星が綺麗ですから、一緒に見にいきませんか?」


普段ならもう就寝している時間だけど、今日は特別。トトリさんに誘われて、星がよく見えるという丘に来ていた。
空を仰げば満天の星空が私たちを見下ろしていた。今にも星が零れ落ちてきそうで、私は無意識のうちに手を伸ばしていた。


「ふふ、星が落ちてきそうですよね」
「あ……」


子供のような行動に気づき、私は慌てて手を引っ込める。恥ずかしさで顔が熱くなってくる。ただでさえトトリさんとは年が離れているのに、余計に子供っぽいと思われてしまっただろうか。


「……あれ?」


握った手のひらに違和感を感じて開いてみると、淡いピンクの小さな塊がそこにあった。懐かしさも感じるその塊の正体は……、


「……金平糖?」
「はい、昼に出店で見かけましてね…ついつい買ってしまいました。まるで星の欠片だと思いませんか?」
「トトリさん…」


トトリさんは悪戯が成功した子供のように微笑っていた。それがどうしようもなく愛しくて、胸の奥が甘く疼く。
金平糖を口に含み、カリ、と砕く。口の中に優しい甘さが広がっていく。


「実は子供の頃は金平糖を星の欠片だと思い込んでいたのですよ」
「そうなのですか?」
「キースに言われるまで、ずっとそう信じていました」


夢が一つ壊されましたねぇ、とトトリさんはしみじみしながら思い出を語っていくれた。なんだかトトリさんらしくて、私はクスリと小さく笑う。


「私も子供の頃は同じこと思ってましたよ」
「ふふ、やはり皆そうですよね」
「はい、流れ星が落ちたものが金平糖になるのだと、ずっと思ってました」


世界にはまだ綺麗なものしかなかった幼く純粋だった頃、誰かから聞いたそんな夢の話を当たり前のように信じていた。淡い色合いがキラキラとしていて、一口食べれば口の中には優しい甘さが広がって。
星は甘くて綺麗なものだとずっと思っていた。


「流れ星の贈り物ですか……それも素敵ですね」


はい贈り物です、とトトリさんはお茶目に笑いながらもう一つ金平糖を私の手のひらに乗せる。


「知っていますか?わたし達は今、過去の姿を見ているんですよ」


すると、トトリさんが唐突にそんなことを言い出した。


「過去の姿…?」
「はい。星はあまりにも遠いところにあって、その光が届くまでに途方もない時間がかかるのですよ。だからわたし達が今目にしている星の光は、遠い過去に発せられたものなんですよ」
「そうなんですか……なんだか不思議です」
「えぇ……だからもし、この金平糖が本当に星からの贈り物でしたら……まさに遠い時間を超えた贈り物ですよね」


そう言ってトトリさんは淡く、柔らかく微笑む。それは夜空の星のように儚げで、美しかった。ふいにトトリさんの顔が近づいてきて、私は目を閉じる。すぐに唇はトトリさんのものと重なり、コロン、と口の中にほの甘い金平糖の味が広がった。

その優しい甘さは、今も昔も変わらない……時間と世界を超えても変わることのない、贈り物だった。




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