泡沫の夢

□優しい嘘は偽りのない優しさでできている
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いつもニコニコ笑ってるからって、つらくないわけじゃない。つまらないプライドが、他人に弱味を見せるのを許さないだけ。そうして自分の中に溜め込んで溜め込んで、何気ない一言で簡単に崩れてしまうほど脆くなってもまだ吐き出せなくて。

そうして自分ではもうどうしようもなくなってしまい、助けを求めたくても手の伸ばし方がわからなくて、ただただ壊れていくのを待つだけの私を、あなたはそっと抱き締めてくれた。


「……アヴィ?」
「ちょっと人肌恋しくなってな。少しだけこうしててもいいか?」
「……」


そんな優しい嘘をついて、アヴィはぽんぽんと心地よいリズムを刻むように私の背を叩いてくれた。途端に私の涙腺は儚くも崩れ、無駄だとわかっていながらもアヴィに気づかれないように声を押し殺して静かに泣いた。
アヴィは服が濡れても、気づかないふりをしている。最近寒いよなーなんてなんでもない話をし、私が返事を返せなくても気にしないでいてくれている。だから私はすがりついてしまう。プライドも何もかも捨て去って、子供が親に甘えるように。


「アヴィ……」
「ん?なんだ?」
「…………」


名前を呼べば、すぐに返してくれる。何か言いたかったけれど、次に続く言葉は出てこなかった。すると彼はぎゅっとさらに抱き締めてくれた。


「……お前はさ、いつも頑張りすぎるんだよ。たまには息を抜かないと体がもたねぇぞ」
「……うん」
「俺がいるんだからさ……少しは頼れよ」
「……うん」
「泣いたっていいんだ。見られたくないなら、俺がこうやって隠しててやるから」
「……うんっ…」


私は彼にしがみついて、今度こそ大きな声で泣き出した。今まで溜め込んでどろどろになってしまったものが、涙に溶けて流れ出ていく。嫌なことやつらかったことを全部言葉にしてぶつけても、アヴィは何も言わなかったし何も聞かなかった。ただただ頷いて全てを受け止めてくれた。私が泣き止むまでずっと、傍にいて頭を撫で続けてくれた。あたたかい腕の中で私が泣き疲れて眠りについても、撫でる手を止めることはなかった。


明日はちゃんと笑えるだろう。そしたら一番に、アヴィに笑顔でありがとうって言おう。




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