泡沫の夢

□雨の日の過ごし方
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しとしとと穏やかな雨が降っている。ここ最近晴れの日が多かったから、久々の雨だ。だけど何も今日降らなくても……。
ふいに小さな溜め息が聞こえ隣に視線をやると、紫雨くんがいつも以上に眉尻を下げて窓の外をじっと見ていた。


「せっかく出かけようって約束したのになぁ……」


そう、本当だったら今日は紫雨くんと一緒に町に出かける予定だった。だけど、朝からずっと雨が降り続いていてあえなく中止となった。その事で紫雨くんはすっかり落ち込んでしまっていた。
元気出して、と言うけど彼は力なく笑うだけ。天気のことばかりはどうしようもないから、なんとかして元気を取り戻してもらいたい。


「私……雨でもよかったって思いますよ」
「え……ど、どうして?」
「だって、紫雨くんとこうやってのんびり過ごせるから」


気づいたら、私は思ったことをそのまま口に出していた。
確かに一緒にお出かけできなかったことは残念だけど、紫雨くんと一緒の時間を過ごせるだけで私は満足できる。紫雨くんもそうだといいな。そっと彼の顔を覗き込むと、彼は恥ずかしげに……だけど嬉しそうに微笑んでいた。


「僕も……」
「?」
「僕も、姫と一緒に過ごせるなら……雨でもいいかな、なんて……」
「紫雨くん……」


よかった、笑ってくれて。私も嬉しくなって紫雨くんに笑い返す。
そのまま自然と肩を寄せ合い、特に会話をするでもなく同じ時間を共有しあった。ずっと雨が続けばいいのに……なんて思ったりして。
ふと窓の外に視線を向けると、いつの間にか雨がやみ、雲の切れ間から青空を覗かせていた。


「あ……紫雨くん!見て見て!」
「え?わぁ……!」


そして空には鮮やかな虹がかかっていた。開けた窓からは風が流れこんでくる。このまま雲が流れていけば、もっと綺麗に虹が見れそうだ。


「ねぇ、紫雨くん。今からでも町に出かけない?」
「うん、そうだね」


時刻はまだお昼を過ぎたあたり。時間は十分にある。紫雨くんも同じことを考えていたようですぐに頷いてくれた。

のんびりと部屋で過ごして、そのあとに町にも出かけられて。こんなに充実な時間を過ごせるなら、たまには雨の日も悪くないと、ちょっとだけ思った。


某方に捧ぐその2


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