泡沫の夢

□膝枕
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「あの……寝心地悪くありません?」
「そんなことはないですよ」


ほんわかとしたいつもの笑みでそう答え、トトリさんは寝転びながら読書を始める。私の膝に頭を乗せて。
私は今更ながら襲ってきた羞恥心にただひたすらに耐えていた。







ことの始まりは、少し前に遡る。



「わたしだって、たまには貴女に甘えたくなるんですよ」


少し寂しげにトトリさんがそう言ったのは、いつも通りに二人で過ごしている時だった。

いつもは完璧な紳士で大人なトトリさんが見せた初めての弱さに私の心は見事に撃ち抜かれ、何気なしに膝枕しましょうか?と言ってみたら、トトリさんはお願いします、と私の膝に頭を乗せてきた。
最初は滅多にないトトリさんの姿に思う存分甘やかしたいという気持ちが強かったのだけど、だんだんと今の状況を呑み込んでくると恥ずかしさが勝ってきた。


(集中できない……)


私も読みかけの本の続きを読んでいるのだけど、状況が状況だけに中身がなかなか頭に入ってこなかった。
チラリとトトリさんの方を盗み見してみると、彼はいつものように本の世界に入り込んでいた。さすが大人。余裕ありまくりですね。


(なんだか……私だけが意識してるみたいで、)


少し、寂しい。なんて思った時、黄水晶の瞳と目があった。


「!」


私は慌ててトトリさんから視線を反らした。顔が一気に熱くなる。クスクスと小さく笑う声が聞こえて、尚更恥ずかしくなってきた。


「やはり慣れないことをするのはいけませんね。なかなか本の内容に集中できません」
「え……?」


トトリさんから意外な言葉を聞き、私は目を瞬かせた。


「恥ずかしそうにしている貴女があまりにも可愛らしくて、ついついそちらにばかり気がいってしまいます」
「……!」


トトリさんの目が優しく細められ、私はさっと本で顔を隠した。きっと今、すごく赤くなっているだろう。


「ですが、たまにはこういうのもいいですね」


トトリさんはいつものように、穏やかにニッコリと笑う。その頬が少しだけ赤らんでいるように見えた。


「……トトリ、さん」
「なんです?姫」
「…………好き、です」


いつもは恥ずかしくてなかなか言えない言葉。だけど、今はすんなりと言えた。
するとトトリさんが私の頬に手を伸ばし、少しだけ上体を起こして、ほんの少し触れるだけのキスをしてきた。


「私も、ですよ」


ただただ優しく告げられたその言葉に、幸福感が満ち溢れてくる。私が微笑むとトトリさんの笑みがさらに深くなった。

読書を中断して、私達はほんの細やかな幸せの時間を穏やかに過ごしていた。


トトリさんまだ攻略してないけど某方に捧ぐ


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