捧げもの

□もっともっともっと
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高校生になって早1ヶ月
中学と違って大人な雰囲気で素敵な恋でも出来るんじゃないかと期待していた春__
そんな事あるわけないのにね




『世の中上手くいかないものよね』




きっと私の目は遠い目をしていることだろう
だって高校生になったところで…いい人なんていないんだから
あぁ、私の(理想の)王子様はいないものかしら?
なんて乙女チックな思考回路に陥ってみるけどそんな人居るわけ無いよね。トホホ(泣)
そう!例えば生意気でカッコいいんだけど、どことなく可愛らしくて…ツンデレとかだったら尚最高っ!!
そんな人いないかなぁ…いないよね。うん、分かってる
で、更に欲を言えば私よりほんの少しだけ小さかったりすると可愛くてGOOD!
出会いはそうだなぁ
ベタな少女漫画のようにぶつかってトゥクンなんてどうだろう?
いや、それよりも落とし物を一緒に探してあげるところから始まるのなんてどうだ!?
いやいや、それよりも…


死んだ目をした脳内お花畑という不思議な生命物体が帰宅していると、目の端でテニスコートを捉えた
別にそれだけだったら私は何の気無しに素通りしていたことだろうが、目の端に捉えたのはテニスコートだけではなく




『(わぁ、何だろう。黄色いものがこっちに飛んでくるよ)』




テニスボールだと分かってても身体は動いてくれず、目をギュッと瞑る
当たる!!
絶対にそう思っていた
だが暫くしても痛みは来ない
ギリギリのところで当たらなかったのだろうかと思い、ゆっくりと閉じていた目を開ける




『えっ?』




目の前に男の子がテニスラケットを持って立っていた
こちらに駆け寄ってくる2人の男性もいる
私はと言うとポカンと間抜けな顔をしていただろう




「大丈夫ですか?すいません、こいつがすっ飛ばしたもんで…」

「おい!俺のせいにするなよ元はと言えばお前が…」




2人の男性が謝りつつも罪のなすりつけ合いをしている




「まだまだだね」




男の子はそう呟くとすぐさま立ち去って行った
もしかしたら彼が助けてくれたのだろうか?
私は2人の男性に大丈夫だということを伝え、男の子を追いかけた




『ね、ねぇ!きみっ!』

「ん?」

『えっと、その…』

「なに?」




追いかけたが言葉が見つからずごにょごにょと口ごもってしまった
そうだ!お礼を言わなければ
助けてもらったというのにお礼も言わないなんて失礼極まりない




『あのっ、助けてくれてありがとうございました!おかげで怪我をせずにすみました』

「別に、助けたつもりなんて無いし」

『あ、そうですか…』




会話の強制終了
繋げようとすれば出来たはずなのに終わらせてしまった
男の子は背を向けて去っていく
満足にお礼も言えなかった…






――…






昨日と同様、私は遠い目をしつつ帰宅していた
原因はもちろん昨日のこと
ではなく!
素敵な人との出会いがないからに決まっている




『はぁ〜あ、どっかに落ちてないかな?私の王子様』




思わずそんな言葉が漏れる
だが何か起こるわけでもなく…いや、何かは起こってしまった
その何かというと少し考えれば至って簡単なこと
私の目の端にはテニスコートが見える。そしてまたさらに端に見えるのは




『(わぁ、黄色いものが飛んでくるよ)』




全く昨日と同じ光景
それでも今回は確実に当たるだろうなと思っていた
だって昨日のことはただの偶然であって、今回もそんな偶然が起こるなんてことは…




『あった』




まさかと思っていた偶然が起こるなんてこと…あったのです
私の目の前には男の子の背中で、手にはテニスラケットを持っている
間違いない!
昨日の男の子と同じ子だ!








『あ、あの…』

「アンタさぁ」

『は、はいっ!?』

「ボールにぶつかるような趣味でもあるわけ?」




開口一番に失礼な言葉を頂いたよ。わぁい
なんて思ったのも一瞬で、私は男の子に見惚れることになった
好みのタイプピッタリなのだ
昨日は慌てていたから顔なんて見ていなかったけど、生意気で私よりほんの少し小さくてカッコいい
まさに理想の王子様!
しかも2回も私を助けてくれるというサービス付き




『これは運命ですか?』

「は…?」

『いや、何でもないです。それより助けてくれてありがとうございます』

「…」

『何かお礼をしたいのですが』

「まだまだだね」




そう言うと男の子は去って行こうとする
また満足にお礼も出来てないし、彼の名前も聞けてないっ!!
私はすぐさま追いかける
引き留めようと思わず彼の腕を掴んだ
たったそれだけのことなのに、私の心臓はバカみたいにバクバクと鳴っていた




「何?」

『えっと…』




腕を掴んだ手が熱い
きっと同じくらい顔も熱い
熱すぎて軽く頭は混乱状態に陥っている
そうだ、まずは話せる場所に移動しよう
それからきちんとお礼をして名前を聞いて
あわよくば連絡先を交換して
それからそれから…




『好きです!』




…?




「は…?」




私…今、何て…?




『私名無しさんって言います!貴方のことが好きです!』




言ってしまった言葉はもう取り戻せない
逃げるが勝ちだと考えた
思わず声に出てしまったというには酷すぎる
こんなこと言うつもりじゃなかったのに
言い逃げという形になってしまうが、私は彼に背を向け走り出した
だって、フラれるのは目に見えているんだもん
だったら返事なんて聞かない方が楽だよね






――…






こんなにツライ日はないんじゃないだろうかと思う
その日に好きになって告白して、勿論のことフラれるといった次の日こそ…ツライという
引きずるよね、そりゃあ




『はぁ〜あ、散々だなぁ』




自業自得なんて言葉は知らない
告白したのだって私の意志とは別のところが働いて口が言ったに過ぎない
私のせいじゃない
なんて自分を保護しようとしたところで、言ってしまったことは事実なわけで…
いや、もう二度と会うこともないだろうし
深く考えるのは止しておこう
私はこの失恋により、更に良い恋が出来るはずだ…たぶん、きっと、恐らく…




『もう、忘れよう』




言葉にすると心がスッキリした
俯き気味だった顔を上げると目の前に見えたのは黄色いボールらしき物で
3度目の正直って言葉があるよね
今度こそ当たってしまうのかぁなんて考えてしまった




『って、避けろよ自分!!』




のんきに考えてる暇があるのなら避ければ良かった
ボールがいきなり失速することなんて無く、いずれ来るだろう衝撃に耐えるため目を瞑る




「名無しさんさんって、本当ボールにぶつかるのが好きなんだね」

『へ?』




2度あることは3度ある
そんな言葉もあったっけ…?
これは夢じゃないよね
私の目の前にはラケットを持った少年がいて




「むしろ助けない方が良かった?」




なんて…生意気そうな笑顔でこちらを見る




『名前…』

「ん?」

『名前、聞いても良いですか?』




先にお礼を言うべきだったのかもしれないが、助けてくれたことやもう一度出会えたことや色々と感極まってしまいそんなことを言ってしまった
だって…彼は私の名前を覚えていてくれていた
それだけって思う?
それだけで私にとっては充分
心臓が五月蠅くなる


彼は不適な笑みをこぼし




「越前リョーマ」




そう言った




『えちぜん、リョーマ…』

「何?」

『あ、あの、助けてくれてありがとうございまいした』

「アンタさぁ、本当に危なっかしいよね」

『え、そんなこと…』

「三日連続でボールにぶつかりそうになる人、そうそういないよ」

『うっ』




リョーマくんはテニスをしていた人たちもコントロールがどうのこうのと言っている
きっとリョーマくんはテニスが好きな人なのだろう
もっと知りたい
リョーマくんのことが好き
リョーマくんのこともっともっと知りたい




『好きだなぁ』

「俺も…」

『え…?』

「俺も好きだった。アンタのことが」




私の呟きに反応してリョーマくんはそんなことを言う
開いた口が塞がらないとはこのこと言うのだろうか
何も言えずに呆然としている私に向かって、リョーマくんは更に話し続ける
私のことをいつから好きだったとか…




『あ、あのっ!』

「なに?」

『こんな私でも良いのでしょうか?』

「…」

『えっと』

「まだまだだね」




名無しさんじゃなきゃ嫌なんだけど
と言ったリョーマくんに、私はノックアウトされた


これから
もっと互いのこと知って
もっともっと好きになって
もっともっともっと仲を深めて
もっともっともっともっと好きになって


2人で幸せになろうね!






END

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