捧げもの

□知るべき事柄
1ページ/1ページ



よぉーし!今日も頑張って部活動ぉー!!


男子テニス部のマネージャーをやらせてもらっている名無しさんです!
元気いっぱい頑張る!それが私の座右の銘
心の中で今日の気合いを叫んだところで越前くん達に混ざってテニスコートへと向かう




『あ、不二先輩こんにちわ!』

「やぁ、今日も元気だね」

『はい!それだけが取り柄なのでっ!』

「そんなこと無いと思うけどな」




不二先輩は私と話すとき何故か頭を撫でてくる
だけど、それは嫌じゃなくて
むしろ落ち着くし大好きだったりする
最初はお兄ちゃんがいればこんな感じなのかなとしか思っていなかった
それがいつしか恋へと変わり、私は不二先輩に片思い中と言うわけである




『さて、充電も完了した訳ですし!頑張りますか!』




まずは皆さんのためにドリンクからですかねぇ
乾先輩には任せられませんから
えっと、粉の分量をきちんと確かめてから…
前に失敗して怒られたことがあるから今では慎重になった
いや、ドリンクの件だけではない
洗濯やらスコア書きのことやら審判を任された時のことやら
数えるとキリがないくらい失敗を犯している
マネージャーたるもの、選手に迷惑を掛けてはいけない!
そう考えている私は日々精進するのだ




『ふぁ、ふぁ…』



それにしても、くしゃみが出そう
危ない。今くしゃみをしては確実に粉が吹き飛ぶ
しかし、手で口を塞ごうともその手は粉が入っている袋を持ってしまっている
開けてしまっているため、置いたら粉が出てくるしで置くことも出来ない
さぁどうしよう。絶体絶命(汗)




『ふぁ、ふぁ…ファービィー!!




やってしまった。
粉が散り散りに…元より粉なのに木っ端微塵に…




『どうしよう。最後の一個だったのに』




みんな疲れているのにドリンク無しだなんて悲惨なこと私には出来ない!
急いで買いに行こう!そうだそうしようっ!




「凄いくしゃみだったね」

『い、乾先輩っ!いつからそこに!?』

「そんなことはどうでも良いさ」

『へ?』

「審判を名無しさんさんに頼みたいと不二が言っていたよ」

『え、あ、でも…』

「ドリンクのことは気にしなくて良いよ。俺が何とかしよう」

『あ、ありがとうございますっ!!』




何とか今日の失敗は逃れることが出来そうだ
乾先輩、本当に感謝です!
今度ちゃんとお礼を…ん?


乾、先輩…?


あ、(察した)




『(ごめんなさい、皆さん)』




謝ったから大丈夫だよね
あはは(汗)




『あ、不二先輩!』

「名無しさんちゃん、ごめんね忙しかったかな?」

『い、いえ!平気です!』

「それなら良かった」




よし!今日は失敗しないぞ!!
と意気込みながら審判が座る場所へと上る
はずだった…




『ふげっ!!』




足を滑らせて落ちた
頭を思いっきり打ち付けたためしばらく動けなかった
あぁ、皆さんが心配してくださっている




『あぁ!!ごめんなさいっ!!』




完全に目を覚ました
少し頭がクラクラしたが、またみんなに迷惑を掛けるくらいならこれ位の痛みなんて事はない


飛び起き平気だというアピールをする
集まって来ていた皆さんも安心したのか去っていった




『良かった』

「何が?」

『いや、周りに迷惑を掛けなくて』

「ふ〜ん」

『!? 先輩?顔が笑っておりませんが…』

「無理してるでしょ?」

『そんなこと…』




おもむろに頭の後ろ側を撫でてくる
あるところに触れた瞬間ズキンッと先ほどまでとは違う痛みが走った




「ほら、たんこぶ出来てるし」

『うぅ』

「保健室から氷水でも貰ってくるよ」

『あ、自分で行きます!』




これ以上迷惑は掛けられない
さっさと行ってしまう不二先輩の後を追うように保健室へと向かう




『不二先輩!』

「何?」

『怒っていませんか?』

「いいや」

『(嘘だ)』




笑っていてても笑っていない
まず不二先輩の纏うオーラというか雰囲気が違う。真っ黒も良いところだ
ひとまず保健室で冷やすものを貰って後にする
だが、それでも不二先輩の雰囲気は真っ黒なまま




『何で怒っているんですかぁ?』

「怒っていないよ」

『嘘です。怒っている』

「じゃあ何で怒っているのか考えてみなよ」

『え?』




真っ黒な雰囲気は消えたものの今度はイタズラをするかのような笑顔で私を見る
怒っていたことは確実だとしても、何で怒っているのか分からない
だから聞いていたのに逆にそれを聞かれてしまうだなんて




『うう〜ん?』

「ふふ、たぶん名無しさんちゃんには分からないだろうけどね」

『あ、と言うことは怒っていたことは認めるんですね?』

「うん、まぁね」

『でも私には分からない』

「たぶんね」




それって何だか悲しいし悔しい
不二先輩のことは結構見てきたつもりだし好きだから知りたいのに




『絶対に分かってみせます!』




不二先輩のことは何でも知っていたい






――…






『とは言ったものの…』




分からないものは分からない
仕方がないと言えばそうなのかもしれないが




『あぁもう!どうしたらっ!!』

「うるさいんだけど」

『見捨てないで越前くん!君だけが頼りなのっ!!』




私の淡い恋心知っていて尚かつ不二先輩に近しい人なんて彼しかいない
越前くんに相談をしても五月蠅いか黙って、あっそう。位の返事しかしてくれない
酷いよ、君のお友達が苦しんでいるというのに




「誰が誰の友達だよ」

『私が!越前くんの!』

「…」




はぁ…と溜め息を吐かれデコピンをされた
おぅふ!何故だ!?




「取り敢えずマネージャーとしての仕事をちゃんとしてよ」

『あ、はい、ごめんなさい』




越前くんに諭されてしまった
そこで立ち去ろうとしていた越前くんの肩にゴミが付いていることに気付いた
呼び止めてゴミを取ってあげようと足を踏み出した私は、何もないところで足を躓かせ
とっさに近くにいた越前くんを掴んで下敷きにするように一緒に倒れ込んでしまった


あぁ、また迷惑を…




「いたっ、」

『うわぁ!!ごめんよ越前くん、怪我はないかい?』

「うるさい。耳元で喋らないで」




すぐさま越前くんから退く
すると近くで黒いオーラを感じる
先ほど感じたものと同じ…いや、それ以上の…
どうしよう。後ろが向けない
越前くんは私の後ろにいる方を見るとそそくさと去っていった
裏切り者めぇ!!




「名無しさんちゃん」

『は、はい?』

「こっちを向いて?」

『…』




ゆっくりと後ろを振り向く
そこに立っていたのは(黒い)笑顔の不二先輩


分かってしまった
たぶん不二先輩は私に怒っているんだ
毎回迷惑を掛ける私に…
そりゃそうだよね。ドリンクの粉をぶちまけるしスコア書きは間違えるし選手に怪我をさせるような出来損ないのマネージャー




「はぁ、名無しさんちゃん」

『は、はい』

「怪我してる」

『え?』




よく見ると右足を擦りむいていた
全然気付かなかったや
はっ!じゃあ越前くんも怪我をしてっ…!!


もう一度確認するべく、越前くんのいる場所へと向かおうとすると手を掴まれ阻まれた




「自分のこと、もう少しは大切にしなよ」

『え…え?』




耳元で囁かれて心臓は早鐘を打つ
だから、少しの間言われたことを理解するのに時間がかかってしまった




『えっと、ご心配ありがとうございます』




自己管理も出来ないマネージャーなんていらないって意訳ですかね?
あぁ駄目だ
もしそうだったら私ってば凄く嫌われているじゃないか
元気いっぱい頑張るが座右の銘の私でも流石に泣けてくる
頑張れる気がしない




「名無しさんちゃん、僕が怒っている理由、教えようか?」

『あ…っと』

「…」

『教えてください』




こんなに早く答えを教えてくれるだなんて…でも分かっています。私に怒っているんですよね?迷惑をかける自己管理でさえも出来ない間抜けなマネージャーに対して




「名無しさんちゃんに対して怒っていたんだよ」

『っ、』




あぁ、やっぱり
どうしよう


凄く


胸が


痛い




「自分のことは二の次にしてしまう一生懸命な君に」

『先輩、あの…』

「心配をしてるんだよ」

『それは、ごめんなさい』

「好きな子が怪我をして心配しない人はいないってことを知っておいて欲しいな」

『…え?』




不二先輩はそれだけを言うと絆創膏を渡して練習に戻って行った
私はと言うと、しばらくはその場を動けずにボッーとしていた。手塚部長に怒られるまではそうだったと思う
きっと、私の顔は真っ赤だったんだろう






END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ