現実
□第七話
1ページ/1ページ
「粛正…ですか?」
ある日の昼、私は局長に呼び出され局長室へとやって来た。当たり前のごとく副長もいる。そこで聞かされたのは、一番隊限定で動く粛正の話。
…ひとつ言わせてもらう。
「何故沖田隊長にではなく私に言うんですか」
いくらなんでも、こんなに重大な情報を一隊士に知らせても良いものか。もしも私が攘夷志士のスパイだったらどうするんだ。
「教えてやろうか、月山。
…総悟がテメェの言うことだけはやけに素直に聞くからだ」
いや、全然嬉しくない。
なんだか良い感じにまとめてられているが、詰まるところ私が良いように使われてるだけだろう。
「この通りだ、氷雨ちゃん!」
「…分かりました、伝えておきます」
はぁ、と溜め息をこぼし渋々承諾。
…局長の頼みじゃなかったら100%断っていた。
部屋を出ようとすると、副長にとめられた。
「因みに、この件が片付いたらテメェは副隊長に昇格だ」
「はい?」
私が、副隊長?一番隊の?
確かに元副隊長の三門さんは殉職した。座は空いている。だが私のようなぽっと出が簡単に乗っかっていい席ではないだろう。仮にも一番隊、真選組の刃なのだから。
「お前の能力の高さは、あん時から分かってたんだよ。ここ暫くは様子見で平隊士させてたがな、やっぱテメェはそれじゃ勿体ねェ」
「ですが…」
「良いか、これは副長命令だ。
この件が片付き次第、月山氷雨は真選組一番隊副隊長に昇格する」
副長命令と言われれば、断ることも出来ず。
…余計動きづらくなったじゃないか。
私は本来、元の世界へ戻る手段を探るためにここへ入隊したのだ。今もその目的は変わっていない。それなのに、そんな大層な地位を与えられては動くに動けない。はっきり言って迷惑なことこの上ないのだ。
返事もそこそこに部屋を出て、沖田隊長を探す。おそらくまた、縁側にいるのだろう。
「…いた」
縁側に行ってみれば、案の定彼の後ろ姿が。
沖田隊長、と声をかけようとして止めた。誰かとお話中らしい。…喧嘩中といった方が適当か。兎に角この場にいるのは不味い…というより関わりたくないので、踵を返す。
「ちょいと待て、テメェ俺を見捨てんのか」
どうやら沖田隊長にはバレていたらしい。
まぁ、当然か。気配も消してなかったし。
「見捨てるだなんてとんでもない。
ただちょっと関わりたくないなと思っただけですよ」
沖田隊長と…万事屋御一行なんて。
関わったらろくでもない目に合うと、水島さんから教えられている。
「それを見捨てるっつーんでィ」
「あらそうなんですか、知りませんでした」
苛立っていた私は、ほんの少し意地悪く返した。
「うっぜェ。オメー段々生意気になってくなァ」
「それ副長にも言われました。いわく、沖田隊長に似てきたとか」
マジか、と顔を歪ませる沖田隊長。
酷くないですか、ってか被害受けてるのはこっちだと思うんですけど。
「それで?沖田隊長は何をなさっていたんですか」
私はチラリと神楽さんの方を見る。
目があった瞬間に逸らされ、内心落ち込む。
「旦那らがお前を出せってんでさァ」
「私を?」
前回が初対面の私に、一体何の用があるというのだ。思わず顔をしかめた。
「オイオイ…俺ァそんな言い方してねェよ、総一朗クン」
「旦那、総悟です」
皆さんお馴染みのあのやり取りをしながら、小突きあっているお二方。漫画とかアニメとか…そういうので視てると面白いんですけどね、あれ実際に見るとイラッとしますよ。話が進まなくて。
「で、銀時さん」
私が彼の名前を呼ぶと、沖田隊長を含め全員が驚く。
「なななななんで俺の名前知ってんのォ?!」
「以前お会いした時に、水島さんがそう呼んでらっしゃったので」
というか、そんなに動揺することか?
あ、私が珍しく下の名前で呼んだ理由は…まだ苗字を知らない設定だから。自己紹介が済み次第、坂田さんと呼ぶつもりだ。
「あ〜そうか、青空の〜へェ〜」
「すみませんが、改めてお名前を伺っても?
私は月山 氷雨と申します」
私は頭を下げる。
「あー、俺ァ坂田 銀時。万事屋銀ちゃんって店をやってんだ」
「万事屋…」
初めて聞いたかのように、私は目を丸くした。
「一言で言うと、何でも屋みてーなもんだよ」
「そうなんですか…。
そちらの方々は従業員さんですか?」
知っている。メガネさんのことも神楽さんのことも全部知っている。
本当ならばこんな過程通り越して、本題に入りたい。だが"初対面"という壁がそれを許さない。
「あっ、はい!志村 新八といいます!」
「ワタシは神楽いうネ」
先程目を逸らしたのが嘘のように、自己紹介をしてくれる神楽さん。
一体アレはなんだったんだろう。
「月山 氷雨と申します。これからよろしくお願いしますね、志村さん、神楽さん」
「は、はい」
「…よろしくしてやるネ」
何故そんなに悲しそうな顔をするのか。私には理解できなかった。
自己紹介だけ終えると、彼らは帰ってしまった。まさか挨拶のためだけに態々ここまで来てくれたのだろうか。律儀だな、以外に。
「…あ。そういや、オメー俺を捜してたんですよねィ」
「えぇ、副長からの伝言を言付かりまして」
「?」
「明後日の粛正のお話と、私の昇格のお話です」