現実
□第六話
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「沖田隊長ー」
皆さん、こんにちは。
月山 氷雨です。
私は今、沖田さんを探しています。
理由は簡単、彼が会議をサボったから。
土方さんに呼んでこいとどやされ、仕方なく屯所内を探し回っているのです。
縁側に行く手前、庭で素振りをする隊士達が目に入る。…精が出ますね。
というのも、私は参加したことがないのです。朝練にも。
挨拶の時、隊士達に啖呵切ったせいで、屯所内では局長と副長、沖田隊長、山崎さん、水島さん以外に除け者扱いをされている。
まぁ、自業自得といっちゃそこまでのため、別に気にはしていないのだが。
それより…
「沖田隊長ーどこですかー」
今は沖田さんを探し出すのが最優先だ。
予想通り、彼は縁側にいた。
人を小馬鹿にしたようなアイマスクをつけて。
土方さんが「ムカつく」といっていた訳もなんとなくわかる気がする。
現に私もイラッとしたもの。
「沖田さ…じゃなかった、沖田隊長」
気を抜くと直ぐコレだ。
沖田さん呼びに慣れてしまって、隊長と呼びにくい。
夢小説であれば、ここで「総悟と呼びなせェ」的な展開になるのだろうが、生憎そんなことは現実起こらない。
それに、私達はあくまでも上下関係にあるのだ。気を張らずとも、自然と呼べるようにならなければ。よし、これから心の中でも隊長と呼ぼう。
「起きて下さい、沖田隊長」
そう言って揺さぶってみるも、一向に起きる気配がない。私は覚悟を決めて、アイマスクに手を伸ばした。
「…っと」
アイマスクが外れても尚、目を開けない隊長。…手強いな。
「おーきーてーくーだーさーい」
耳元で言ってみるも、やはり効果なし。
どうしたものか。
「んー…」
あれこれ考えを巡らせながら一人唸っていると、
「あれ、どうしたの?」
偶然通りかかった山崎さんに話しかけられた。
「山崎さん!実はですね…」
私は山崎さんの腕を引き、耳元で相談事を述べる。彼は一瞬顔を赤くしたが、直ぐに元の表情へ戻り私の話を聞いてくれた。
「うーん、そっか…どうしようもないしなぁ」
「ですよねぇ…」
叩き起こすという強行手段に出ても良いのだが、そんなことをすれば後でどんな目に合うかわからない。
「…って、山崎さん。
もしかしてこれからお仕事でしたか?」
彼の格好を見ると、いつもの隊服ではなく動きやすそうな忍者スタイルになっていた。
お仕事だとすれば、私はとんでもないお邪魔をしてしまったのだろう。
「ううん、終わったところ。
今日はこの後非番なんだ」
「そうだったんですか…。
お疲れでしょう?私のことはいいですから、休んでください」
…少し言い方がキツかっただろうか。
でも休んでほしいのは本当だ。
監察は見かけより体力を使う…それ故に強靭な精神力が必要らしい。山崎さんは表に出さないが、きっと物凄く疲れてらっしゃるだろう。
「でも沖田隊長が起きないと、氷雨ちゃん大変でしょ」
「いえ…平気だと言えば嘘になりますけど、私はそれよりも山崎さんにゆっくりして頂きたいですから」
そう微笑むと、山崎さんはそっかと頬をかきながら私の隣に腰をおろした。
「優しいね、氷雨ちゃんは」
「…そんなこと、ありませんよ」
本当に心の優しい女の子であれば、刀片手に暴れまわったりしない。人を殺めたり…しない。
「ううん、優しいよ。
…少なくとも、僕達より、ずっと」
その言葉には裏があるようで、けれども山崎さんの表情が追及を拒んだ。
いつかの隊長も同じ表情をしていた。
―なァ、氷雨…。
―なんですか。
―オメーは優しいよな、ホント。
―…優しくないですよ、私は。
―いーや、優しい。まるであいつみたいでさァ。
―あいつ…?
―!…………。
顔は笑っているのに、その瞳は酷く哀し気で。問えばどこか哀愁を秘めた声色で、なんでもないと呟いた。
「そう…ですか」
「うん」
一体…私に誰を重ねているの。
どうすることもできない己に歯がゆさを感じ、ソッと目を閉じた。