現実
□第五話
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「おはようございます」
次の日の朝、私は玄関で水島さんを待っていた。今日は初めての見回りの日なのだ。
私は見回りコースを覚えるため、そして途中に携帯ショップに寄るため水島さんと出かける。
何故携帯ショップに行かなければならないのかというと、昨晩、沖田さんに「携帯がないと色々不便だ」と指摘されたから。
「遅くなってごめん、待っただろ」
「いえ!私もほんの数分前に来ましたから」
そういえば、此方の世界の携帯機種にスマホはあるのだろうか。iPh〇neじゃなくて、スマホ。
どうでもいいことを考えながら、私は歩き出す。上下関係であれば、私は一歩後ろに下がるべきなのだが、水島さんとは同僚にあたるため横に並ぶ。
「良い天気ですね、水島さん」
私は彼に笑いかけた。
私と彼では身長差が15pほどあるため、必然的に私が見上げるかたちになる。
これから毎日こうだと思うと、正直気が滅入る。…そのうち後頭部と首がくっつくんじゃないか。
「そうだな、この服装だと余計にあつ……」
不自然に切れた言葉に疑問をおぼえ、彼の視線の先を追う。
「この服装より暑苦しい奴ら見つけた」
「…私も見つけました」
「ちょ、やめてくださいよ!これ僕のですから!」
「うるせェ!これは大人のモノなんだよ!!」
「何ですか大人のモノって!アンタが言うと卑猥に聞こえんだよォォォォォォォ!!」
「うるさいヨ、ここは間をとって私がもらっとくアル!」
「全っ然間とってないんだけどォォォォ!?」
「…水島さん、行きましょう」
「…そうだな」
私達は、道端で騒ぐ三人組に気が付かないフリをしながら先を急ぐ。…はずだった。
「あ!税金泥棒アル!」
見つかってしまったのだ。
いや、百歩譲って私は無関係だとしよう。私は彼らを知っているが、彼らは私を知らないのだから。
問題は水島さんだ。知り合いなのか、はたまたそれが嫌なのか。ものすごい量の汗。
「おうおう、青空じゃねーか」
そう声をかけてきたのは、銀魂の主人公である坂田銀時。なるほど、本物の死んだ魚の目をしている。あれは比喩ではなかったらしい。
「ぎぎぎぎぎぎぎ銀時さん。お久しぶりですね〜」
水島さんが挙動不審になっている。
…苦手、なのだろうか。
ぎこちないまま会話を続ける二人を見て、私は近くにあった甘味処に入ることにした。
これはサボりではない、不可抗力だ。
私は生粋の甘党。そんな私が甘いものの誘惑に勝てるわけないだろう。
「!?!?ぎ、銀ちゃん!!!!」
まだおぼこい女の子…神楽さんが、坂田さんの服の裾を引っ張りながら、なにかを指差す。
私はキョロキョロと辺りを見回し、彼女の興味を惹いたものを探した。
「なんだ…よ……?!?!青空、あれ…」
「あー…違います。最近入隊したばかりの月山 氷雨です」
水島さんが坂田さんに何かを説明している。ここからでは会話の内容まで聞き取れない。別に良いけど。
「神楽、新八…勘違いすんな。あれはアイツじゃねェ」
アイツ…?
「あああああの女の子、ごっさ可愛いアル!
で、でも税金泥棒の服着てるヨ、一体どういうことネ」
税金泥棒って、真選組のことだよね。
可愛いかどうかは兎も角、隊服着た女って私くらいだよね。
神楽さんがいうのは、もしかして私のことなのだろうか。
「うっわ、マジか!青空くんにもとうとう春が…」
「違いますから」
待って、水島さん、即答は傷つきます。
「名前なんていうアルか?!」
ぐいぐいと詰め寄られ、あっと思えば時既に遅し。ぐらりと後ろに重心が傾く。
名前言わなきゃなー、でも私フラグたってるしなーなんてのんびり考えながら、次に来るであろう衝撃に備える。
…が、それはいつまでたってもこなかった。
代わりに背中に腕の感触がある。どうやら誰かが支えてくれたようだ。
「重い、氷雨」
「え?」
聞き覚えのある、気だるそうな声にハッとし、即座に飛び退く。
「え、ちょ…沖田さ……」
沖田さん、と名前を呼び掛けて止める。
屯所の外で、しかも見回り中。ここは一番隊隊士として、沖田隊長と呼ぶべきだろう。
「沖田隊長、何故ここへ?」
坂田さん攻撃から復活した水島さんも、私の側に立つ。神楽さんは、沖田さんに今にも飛び掛かりそうな勢いだ。
「俺がここにいちゃ悪りィのか」
「いえ、悪いとか以前にですね。
隊長と副長は東の見回り担当じゃありませんでした?」
これも此方の世界に来てから知ったことなのだが、見回りは東西南北の各方面にわかれて行うらしい。
今日、私と水島さんは西方面。
沖田さんと土方さんは東方面。
つまりは、そう、逆方面なのだ。
「俺的にはここが東なんでィ」
「ここは西です」
「うるせェ」
なんとも自分勝手なお人だ。
今に始まったことではないが。
(え、何々。あの二人できてんの?)
(さぁ…似てるから、じゃないですかね…)
(…瓜二つネ)
(あァ…総一朗君も難儀なこって…)
(銀時さん、総悟さんです)
結局、沖田さんは私達と一緒に西方面の見回りをすることになった。
何故かって?そんなこと分かりきっている。
私達がいくら説得したって、この人の耳には入らない。入ったとしても右から左状態だ。
「隊長、サボらないで下さい」
「携帯も無事買えたんだから良いだろィ」
「まァ…買えましたけど」
「隊長が無理矢理同じの買わせたんでしょ」
「黙れ青空」
こんな会話を続けながら。
勿論、後で土方さんにこってりと絞られました。
オマケ→