現実
□第三話
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「おはよう、氷雨ちゃん!入隊する決心がついたんだね!」
「いやぁ…はは」
断れなくしたのはどこのどいつですか。
本当なら今頃私は元の世界に帰る方法を見付けて…いればいいのになぁ。
「配属は一番隊、パートナーは水島だ」
「水島さん、ですか」
「後で部屋を案内してやるから、そんときに挨拶でもしとけ」
…何故そんなに上から目線なのだろう。
確かに年齢的にも立場的にも私より上だけど、だからといって何でもかんでも命令すりゃ良いってもんじゃないでしょ。
「分かったな?」
少しは近藤さんを見習えばいいと思う。
ほら見ろ、煎餅片手に猫と戯れているあのほのぼのとした姿を。癒されるだろう。
「…聞いてんのか」
私はどうやら、いつの間にか近藤さんの方を見ていたらしい。仕方ないじゃない、癒されるんだもの。
「オイ、月山。無視か?」
いい加減しつこい土方さんを一瞥し、右手の人差し指で近藤さんを指す。
土方さんは私の指に指されるがまま、近藤さんの方を見た。途端に深い溜め息を吐く。
「…近藤さん、コイツの配属は一番隊でパートナーは水島。仕事は明日からやってもらう」
先程の説明をご丁寧にも、もう一度聞かされる。…近藤さんってマイペースだな。
てか今仕事明日からって言わなかった?
「水島くんか!そんなに年齢も離れてないし、彼の人気は町でも有名だから丁度いいんじゃないか?」
私の知っている銀魂の真選組人気キャラといえば沖田さんや土方さん、近藤さんだけ。
でもそれはあくまで漫画やアニメの中でのはなしであって、実際には彼らの他にも人気者はいるだろう。今聞いた水島さんのように。
「それだけじゃねェぜ、近藤さん。
アイツは組一番の妖刀つかいだ。コイツを育てるにゃ、うってつけだろ」
妖刀つかい…私は別に扱えるようにならなくてもいいんだけどね。
「そうだったな!」
「つーことで総悟。いるんだろ」
土方さんは閉じた襖に呼び掛ける。
…凄い。山崎さん並みに気配消してたな。
「チッ、はいはい」
入ってきた沖田さんは、3日前と同じ、黒い隊服を身にまとっていた。
私服の時のような青年らしい雰囲気はない。
「舌打ちすんな。
…どうせ聞いてたんだろ、コイツはお前の隊に入れる」
「…わかってまさァ」
珍しく…といってもまだそんなに日が経っていないが、二人が口喧嘩をしないことに内心驚いていた。
…そんなことも、あるんだ。
沖田さんに連れられ、私は部屋を出た。
彼は相変わらずのポーカーフェイスで、何を考えているかわからない。
「…」
「…」
言葉を一言も交わすことなく、水島さんの部屋の前についた。そのまま歩き去っていく沖田さんに、慌てて声をかける。
「沖田さん!
…案内、ありがとうございました」
彼はピタリと足を止め、ゆっくりと振り向いた。その顔は驚くほど冷たく、何の感情も感じられなかった。
…怖い。
「明日から、宜しくお願いします」
震える手足を叱咤し、これ以上ないくらい丁寧に頭を下げる。
結局、沖田さんが声を発することはなかった。