現実

□第二話
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「ふぁー…」


翌朝目覚めたのは、真選組屯所。
そう、私は尋問のあとこの客間で半ば強制的に休まされたのだ。
なんでも「夜に女の子が一人で外へ出るのは危険」らしい。お父さんかっての。

二度寝なんて真似はせず、起き上がり、身嗜みを整える。
昨日貸してもらった寝着を脱ぎ、来た時に着ていた制服を腕に通す。

「へェ、以外と胸あるんだねィ」

以外と、は余計だ。
少なくともDはある…って。

「お、沖田さん?!」

私は素早くボタンを閉め、後退りした。
なんでこの人いるんだろう。

「…いつからいらしたんですか」

「氷雨が、ふぁ ー…って言ったらへんからでさァ」

「最初からいらしたんじゃないですか」

まさか気が付かないなんて。

「まぁまぁ、そんなに怒んなって」

「誰のせいですか」

「…近藤さんが呼んでたぜィ」

「無視ですか」

もういい、と襖を開けるとそこには山崎さんがいた。

「や、山崎さん?いつからいらしたんですか?」

まさか胸のサイズまで聞かれてしまったのだろうか。

「え…いつって、たった今ここに来たばっかりだけど。
氷雨ちゃん、局長室どこかわからないでしょ?」

良かった、聞かれていないようだ。
私がホッとしたのもつかの間、沖田さんが背後から抱き着いてきた。

「おおおおおおお沖田さん?な、なにしてるんですか?」

「沖田隊長?!」

「やっぱり丁度いい大きさでさァ」

ふざけたことを言いながら、両手で私の胸を揉む。…自分でもしたことないのに。

「や、山崎さん、早く行きましょう」

私はどこで習ったかも定かでない体術を使い、沖田さんを投げ飛ばす。
そして山崎さんの手を取り、急いでその場を離れた。


「…氷雨ちゃん、ごめんね」

「え?」

急に謝られたせいで、何のことか分からない。

「沖田さんのことですか?」

「それもあるけど。
昨日といい今日といい…迷惑だったでしょ」

迷惑…か。
昨日は土方さんに軽くどやされ、今日は沖田さんにまさかのセクハラ。
確かに迷惑極まりない。

「迷惑…。
でも、私だって皆さんにとってはお荷物…迷惑者ですから」

ある意味おあいこでしょう、と首を傾げて見せる。彼は一瞬フリーズした後、そうだねと微笑んでくれた。
山崎さんの笑顔は和むなぁ…。


「でも」

山崎さんがほんの少し、真剣な顔をする。
私もつられて、息を呑んだ。

「氷雨ちゃんは、お荷物や迷惑者なんかじゃないからね」

「え…」

「一般の人にこんなこと言っちゃ失礼かもしれないけど…氷雨ちゃんの雰囲気、僕達のに似てるんだ」

それは、悪く言えば"人斬り"のオーラということだろうか。
そんなことを言われたのは初めてで、上手く言葉が出てこない。

どうしよう。
ここで黙ってしまったら、疑われる。それだけは避けたい。
その一心で、喉から声を絞り出そうとする。

山崎さんは、反応がない私を変に解釈したのか、

「あ、疑ってるとかじゃないからね?!」

とあたふた。
そんな様子にフッと口元を緩ませ、言う。

「わかっていますよ、山崎さん。
ただ少し…驚いただけです。そんなこと言われたのが初めてで」

私がそう言うと、彼はあきらかさまにホッとして力なく笑った。

「良かった、嫌われたかと思った」

「…山崎さんは私に嫌われるのが、嫌なんですか?」

真選組の有能監察ともあろうお人が、何故……私のように平凡な小娘に嫌われたくない等と言うのだろうか。

「えー…だって、氷雨ちゃん常識人だもん。周りが変な人ばっかりだからかな、そういうのに飢えちゃって」

「そうなんですか…」

なんだ。
常識人であれば誰だって良いんじゃない。
まぁ、当たり前か。たまたま拾われたのが私なだけであって、その時私でない他の誰かだったとしても同じ様に接していたのだろう。

「ついたよ」

「ありがとうございます、山崎さん」

部屋への帰り方が分からなかったら、近藤さんに聞いてねと言い残し、彼は去っていった。

うん、…いい人だ。
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