現実

□第一話
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―ここは、どこだろう。


それが、目覚めて一番最初に思ったこと。

数回瞬きを繰り返してから、ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回す。

どうやらここは、誰かの家のようだ。
部屋は四畳半の大きさで、驚くほど物がない。あるといえばこじんまりとした文机くらいだ。

我が部屋の造りはこんなに古風だったか。
そんなわけがない。
薄茶色のふかふかした敷物、寝起きのままに荒れたベッドの上に無造作に置かれた本と携帯。
そんなどこにでもありそうな普通の部屋だった筈だ。

だとすればここは一体どこなのか。

悩みに悩み、出た結論は
「とりあえず部屋から出ないことには何も分からないだろう」
というもの。

そうと決まれば早速襖に手をかける。
これだけ古風な家であれば、きっと硬いだろうと力んでみたが、思いの外滑りが良かった。


「…なにこれ」

部屋の外に広がるのは、だだっ広い庭。起床には早い時間らしく、まだ外は薄暗かった。

私はソッと片足で廊下へと踏み出す。
当然といえば当然なのだが、外へ出ても何も起こらないことを確認する。

心のどこかで、これは夢だから直ぐに覚める、と思っていたのだろう。
残念ながら、その希望は無惨にもかき消された。

ドン底に落とされたような気がした。

「勝手にうろうろして大丈夫かな…」

言葉とは裏腹にどんどん進んでいく自分の足。
それでも部屋でじっとしているよりはマシか、と思い直し、方向も分からないまま歩き続ける。

暫く行くと、向かいから誰かが歩いてくる気配がした。

…ヤバい、誰か来る。

そうは思いながらも、咄嗟に隠れるなんて芸当、私には出来ない。
その場に立ち尽くす他なかった。

その場に立ち尽くすということは、当たり前だが向かいから来る誰かと鉢合わせするということで。

「!?お前…誰だ?」

誰だとは随分な言いぐさじゃないか。
私にだって訳も分からずここに連れて来られていたのだから。

「誰って…」

そこまで言いかけて、少し思い留まる。

もしかして、ここには私を連れて来た人以外にも人がいるのかもしれない。
だとすればこの人に対して文句を言う筋合いなどないのではないか。

「答えろ。何故ここにいる」

男の声が本の少し低くなった。
恐らく、言葉を途中で切った私に苛立っているのだろう。

「すみません。
私は 月山氷雨と申します。何故ここにいるのかは分かりません」

謝罪の言葉を述べ、訊ねられたことを手短に答える。

「分からねェ?どういうことだ、テメェ」

だから、分からないんだってば。
苛立つ己を無理矢理宥め、男の顔を見る。

…この男、どこかで見たことがある。

右も左も分からないようなところで、知っている人物がいるというのも不思議な話だが、見たことがあるのだ。


頭がズキズキと痛む。


「オイッ!!」

男の声を最後に、私は意識を手放した。
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