現実

□第一話
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「…ちゃん!! 氷雨ちゃん!!」


誰かの呼び声で私は意識を浮上させる。目を開けると、二人の男が視界に映った。

「良かった、目が覚めたんだね」

無言のまま起き上がり、辺りを見回す。
やはり変わっていなかった。
あの男に会う前に見た景色、私の寝かされていた部屋だ。

「大丈夫?自分のこと、分かる?」

心配そうに声をかけてくれた、優しそうな青年。
本来ならばここでお礼と返事をするべきなのだが、声が出てこない。
私は今それどころではなくなってしまったのだ。

「オイ、何とか言ったらどうだ」

あの男の声もする。
頭痛もなくなり、意識もはっきりした頭では認識できる。

私は彼らを"知っている"のではない、"知っていた"。銀魂という…作品の中で。


「…あ、の」

遠慮がちに声をかける。
優しそうな青年…山崎退は微笑みかけてくれた。

「副長から聞いたよ、月山氷雨ちゃんっていうんだね」

「は、はい」

ぎこちなくはあるが、今度はちゃんと返事を返すことが出来た。

「僕は山崎退っていうんだ。
それで、この人は土方十四郎」

君を運んだのも彼なんだよ、と山崎さんが指したのはあの男…土方十四郎。

なるほど、高圧的に感じたのは間違いではなかったようだ。鬼の副長と呼ばれる彼なら、ここ…真選組屯所でも偉ぶることが出来るだろう。

「運んでくださって…ありがとうございます、土方さん」

私は布団の上に正座し、頭を下げた。

「…」

彼は警戒しているのか、私の言葉に反応を示さない。視線すら合わせようとしなかった。

「ご、ごめんね…」

「いえ…」

申し訳なさそうに苦笑する山崎さんに、私も首を横に振る。
彼が謝ることなどないのだから。
勿論、土方さんも。

「それで…あのね、その」

よっぽど言いにくいのか、歯切れが悪い。だが私には分かってしまった。

…尋問、か。

「山崎さん、私はもう元気になりました。
ですから、心配には及びませんよ」

私がそう微笑みかけると、彼は

「本当?無理…しないでね」

と、心配そうな表情を浮かべながらも頷いてくれた。
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