バク獏

□君と言うひと
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アテム君より先に消えて行ったバクラ。けどアテム君も消えてしまって。………いや、冥界に帰ったのか。僕を残して君は、帰ってしまったのか。
ねぇ、冥界ってどんな世界なの?日本の地獄とは違うの?教えてよ、。


学校で、僕は遊戯君に聞いてみたんだ。アテム君の事を。そうしたら、彼はもう大丈夫と言って来たんだ。やっぱり君は強いね。そんな君が、僕にはとっても羨ましく思えた。

家に帰っても一人に戻ってて。僕は玄関で泣き崩れた。もう、ただいまと言ってくれる人は居ない。何で居なくなったんだよ。何で先に逝っちゃうんだよ。何で………。
玄関で泣くのもあれだから、上がった。そしてソファーにかけてあった、あいつが良く好んで来ていた黒いマントを手に取っていた。まだ、捨てていなかったんだ。と言うより、捨てられなかった。これはあいつとの思い出だから。遊戯君は、どうやって断ち切ったんだろう。…いや、吹っ切れたって言うのかな。僕には、出来ないや。

君が僕の所に来て。僕の人生は大きく変わった。一人だった生活に光が見えたんだ。父さん何て、年に数回しか帰って来ないし。
君は僕に色々くれたよね。特に笑顔を。知ってるんだよ?誕生日の前日。僕から強引に身体を奪った君は、僕の為にシュークリームを沢山買って来てくれて。君はあの時、俺も食いたくなったから買ったと言っていたけれど。それがとても嬉しかったんだ。
君との思い出が有り過ぎて、語り切れないよ。僕はまた泣いていた。
あんな君だったけれど、とても優しかった。それが苦しかった。ねぇ、君の気持ちを聞かせてよ。僕に一度も話さなかったよね。
それは君がゾークの一部だったから?なら何で、僕の姿で僕の前に現れたの?ねぇ、教えてよ。お願いだから、君の事を教えてよ。僕、君から君の過去を聞いた事がなかったよね。まあ。話してくれる雰囲気も無かったけど。


次の日、ちょうど休みだったので、僕は図書館へ行く事にした。クル・エルナ村について調べてみようと思って。
その行く途中で、遊戯君と出会ってしまった。
「獏良君!」
「遊戯君……」
「偶然だね!何処に行くの?」
「ちょっと図書館に……」
「図書館?」
「うん。バクラ………クル・エルナ村について調べたいんだ」
「獏良君………」
遊戯君は一緒に探してくれると言ってくれた。膨大な量の中からその事を探すのは大変だから、僕は彼に一緒に来てくれるよう、頼んでいた。

その道中、僕が眠っている間に何があったのか、聞いていた。
「………そうか、全部バクラが……」
「……けど彼、何処か寂しそうだったよ」
「え?」
「盗賊王の方だけど……。だから多分、彼の過去はとても深い闇で埋まってるかもしれない」
「………」
あの時、僕が見えた世界は、バクラが戦ってる所だった。僕は声を出す事も、側に行く事さえも出来なかったのを覚えてる。だから、余計に知りたいんだ。盗賊王の過去。バクラ、君の事を。盗賊王と君は、違うんでしょ?聞いた話だと、彼は砂になったって言うし……。それに、何が起きたか理解出来ないまま居なくなったとか……。
そんな事を考えていたら、図書館に付いていた。僕らは古代エジプトの本を片っ端から漁った。

そして、それから一時間程かかって、遊戯君が見つけてくれた。
「あったよ!ここ」
彼が指を指した個所を、僕はじっくりと読んだ。
クル・エルナ村は墓荒らしの村だったらしい。そして盗賊王はその村の生き残り。だからとても憎悪で心が埋め尽くされていた、らしい。彼の家庭までは知れないけれど、盗賊王の過去は知れた。
「………じゃあ、大邪神ゾークの事は?」
「それがね、その場所は何処にも書いてないんだ」
「えっ……」
「………もしまた今後、そんな事をしようとする奴等が出たら困るから、書き遺さなかったんじゃないかな」
「………」
居るのかな。って、世界を手に入れたい人間なんて、そこら中に居るか。それに、世界を壊したい人間だって居るだろうし。
「………遊戯君。そのバクラの生まれ変わりが僕だとしたら、僕は」
そこで言葉に詰まった。彼に言ってどうなる?彼は盗賊王を……バクラを憎んでいたんだし。
「……僕だって、アテムの生まれ変わりだよ。だからほら、似てるでしょ?」
「………」
「……きっと盗賊王の方のバクラも、冥界に行ってるよ。もしかしたら、事情を知らない彼の事を、アテムは受け入れてるかもしれないし」
「そう、だね」
そんな時、僕は頬から滴る雫に、気付いていなかった。
「っ獏良君……」
「……ごめ、何か、勝手に……」
僕はその本を閉じて、その図書館を出た。そして近くの公園で暫く泣いていた。
「どうして、涙が出るんだろう。何も悲しく何てないのに……」
「………獏良君」
「僕、泣き虫なんだ。何かあるとすぐに泣いて……。けどそんな時、あいつが、バクラが慰めてくれたんだ。お前は一人じゃないって」
「………」
「分かってた。今の僕には、仲間が居るって事を。けどあいつは、自分の存在の事を気にして、僕には仲間だって言わなかった。家族だって言ってくれなかった」
「家族………」
「遊戯君だって、アテム君の事を家族だって思ってたんじゃないの?毎日、ずっと一緒に居て、どんな時も一緒に過ごして……」
「……うん。ずっとそう思ってたよ。勿論今だって彼は、僕の家族だ。かけがえのない。だから………強くなろうって決めたんだ。彼の為にも」
「……遊戯君」
遊戯君のその言葉のお陰で僕は、泣き止んだ。
「………僕、盗賊王に会いたかった。出来るなら、バクラの意志が入らない状態で」
「それは僕もだよ。後からアテムに聞いた話何だけど、彼、王国に連行される所だったらしいんだ。だから彼の邪悪な心を取り除いてれば……結末は違ったと思うんだ」
そう、だったんだ。連行されてたって事は、盗賊王の性格は凶暴じゃなかったのかな。凶暴だったら、きっと連行されないだろうし。
「……獏良君、いつでも良いから、僕の家においでよ。一緒にデュエルしようぜ」
「遊戯君……」
「城之内君達も皆呼んでさ、一緒にデュエルしようぜ。ね?」
「………ごめん。暫く、デュエルは、したくないんだ」
このデッキは、ずっとあいつが使っていたデッキだから。心が痛くなるんだ。今でも思い出す。あいつがデュエルしていた光景を。
「このデッキ……。あいつがずっと使っていたデッキだし……」
「あ………。ごめんよ、気付かなくて……」
「いや、良いんだ。こっちこそ、ごめん」
僕らは立ち上がって、これ以上遊戯君に不快な思いをさせたくないから、他の所に行くと言って別れた。

遊戯君、いつの間にか強くなってる。そんな彼が羨ましい。僕は……何も出来ないまま、全てを失ったんだ。彼のように、最後に顔を見て決別する事は出来なかった。叶わなかった。何故、どうして君は……。
家に着くと、僕はその場で泣いた。どうしようもないくらいに泣いた。辛くて悲しくて憎くて。
どうしたら吹っ切れて、前に進めるんだろう。今の僕にそんな事、分かる筈もない。とにかく、君にもう一度会いたい。会って、話したい。聞きたい事は沢山ある。
ねぇバクラ、君から見ていた景色は、どうだった?











END

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