※王国心+呪術廻戦の番外編。
※多重クロスオーバー要素があります。
※呪術廻戦 連載に登場した『時和旅館』が舞台となります。
※連載の番外編(前日譚)である【シークレット・メモリー】の先の展開を描いています。
※呪術廻戦の本誌のネタバレを含みます。
単行本派の方は、お読みになる際はご注意ください。
※CP要素(オリキャラ ←←←←← 宿儺)があります。
※原作キャラ(宿儺)が、相変わらず大いに犯罪臭を匂わせる言動と行動をしています。
また、見る方によっては不快な印象を受ける事をしているのでご注意ください。
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(…まだ動かんか)
宿儺は瞼を閉じたまま、己の状況を冷静に分析していく。
意識が現に浮上しておらず、夢路の世界…自らの領域内で、仰向けになったまま静養している。
先の戦いで負った傷が原因だ。
金髪男の攻撃は強力だったが、それよりも猫童が召喚した珍獣共が負わした傷の影響が強い。
かすり傷程度だったが、攻撃に毒の要素があったのだろう…じわじわと眠気が体中を包み込み、身体が地に張り付くように動かなくなった。
(この状態は飽きてきたな…)
宿儺は軽く溜息を吐くと、ふと脳裏に過去の出来事がちらつく。
生まれてから今日に至るまで、様々な者を食らってきた。
文字通り、裏梅に調理させて【品】として味わったものや、色事の意味で肉体を堪能したものもいる。
だが、連れ合いにしたいと欲する者はいなかった。
己が「愛を知らない」と一方的に決めつけ、愛を説こうとした阿呆がいたが…
宿儺にとって【愛】は下らない、どうでもいいものであった。
…数十年前、一人の少女に会うまでは。
『すーさん、さようなら』
あの時、あの娘が言い残した言葉。
幼き頃の彼の者を己の贄と定め、成長して“食べ頃”になったのを機に我がモノにしようと画策した。
その身も心も己の色で染め上げたいと強く渇望し、手中に収めようとした初めての女子。
それなのに、自らの手からするりと抜け出し、あの娘は縁を切って逃げてしまった。
心臓を刃で切り刻まれたかのような重度の苦痛、全身の血液を沸騰させる程の怒りを覚えた。
呪いの王である自分に、これ程までの精神的苦痛を与えた事は万死に値する。
そんな負の感情が沸き立つ一方で、娘…伊織に対する狂おしいまでの愛情と独占欲は消えなかった。
それゆえに、宿儺は彼女の行方を探し回った。
夢渡りの能力を駆使して、あらゆる領域を渡り歩いた。
見つけたら、徹底的に教えてやらねばならない。
伊織が…彼女がいなければならない場所が、己の傍である事を。
(そして…見つけ出せた)
彼女の姿を数十年ぶりに瞳に映した瞬間、仄暗い歓喜が全身の細胞を満たした。
狐の面を被っていても、内に秘めた力は欺けない。
素顔を隠しているが、別れた頃よりも美しくなっている事は明白だ。
…喉から手が出る程欲しい。
身に纏うものをすべて取り払い、あの雪原を連想させるきめ細やかな柔い肌を頭から足先に至るまで食らいつくしてやりたい。
内から湧き出る欲を盛大に叩きつけた際に、あの娘はどんな音色の声を紡ぐのだろうか。
苦痛と快楽に塗れ、乱れて喘ぐ姿を想像するたびに興奮が収まらなくなる。
そのまま攫う事もできたが、それでは物足りないと感じた。
ならば、趣向を凝らしてみる事にした。
宿儺がかつて生きた時代では、高貴な身分の男は妻にしたい女に文を送る儀があった。
その作法の一部を変化させ、文ではなく一輪の花を贈る事にした。
伊織が植物が好きであり、花言葉の知識もある事を見越しての算段だ。
不定期に、種類の違う花を…彼女の自室の近くの縁側に置いた。
花を手に取り、口元を綻ばせる伊織の姿に、春の日差しを浴びた時のように…不思議と胸が温かく満たされていった。
そうこうしている間に月日が流れ、受肉のように完全とはいかないまでも、人の肉体を手に入れる手段を得た。
(計算外だったのは…あやつが男を知っていた事だ)
伊織と直に会えた事は喜ばしいが、同時に神経を苛立たせる事実も判明した。
伊織がヴァルハラ教団から離れているとはいえ、シスターの身であれば、生娘であると思っていた。
よもや、異世界で結婚していたとは…
その事を聞かされた時、宿儺は氷の海に突き落とされたかの如き 衝撃を受けた。
(どこの凡夫か知らんが、つくづく腹立たしい…ッ)
夫となった人物が、既に鬼籍に入っているのが幸いと言うべきか。
存命していたら、有無を言わさずに残酷に殺していただろう。
…とはいえ、伊織への強い想いが植物のように萎れる事はなかった。
むしろ、彼女の中にある夫への想いを完全に消滅させるくらいに、上書きしなければならないと新たな目的ができた。
(待っていろ…伊織)
伊織は、己を拒む可能性が高い。
例え、どう理屈をこねようと、尤もらしい理由を重ねようとも…
宿儺は、もう彼女を手放すつもりは更々ないのだ。
「…眩しい」
いつの間にか、意識が現へ浮上していた。
四つの目に映るのは、己が拠点としている邸宅の天井。
徐に腕を上げて、ぐーぱーと手指を動かしていく。
「宿儺様、失礼いたします」
戸を開けて入ってきた部下に、宿儺は上半身を起こした。
「お目覚めになられましたか」
「ああ…」
「ご加減はいかがでしょうか?」
「可もなく不可もない。時間はどのくらい経った?」
「二日です。屋内外で目立った事はございませんでした」
意外と短期間の眠りだったか…
首をこきこきっと鳴らし、目を瞬きさせると同時に腹の虫も鳴り出した。
「腹が空いた」
「朝餉の支度はできております」
「なら、頼む」
かしこまりました…と裏梅は速やかに部屋を退出する。
宿儺は軽く欠伸すると、開いた大きな窓から見える外に視線が向かう。
野山の一場面を切り取ったような自然な庭の風景。
裏梅が、独自のルートで選出した使用人が庭を剪定していると言っていた記憶がある。
視線を巡らせると、片隅の方に花壇があった。
そこに植えられている季節の花々に紛れる形で生えている“あるもの”に目が留まる。
「ちょうどいい。次はアレにするか」
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