短いの

□それでも世界は廻るのさ
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パチリ、と目を開けた。

そこに飛び込んできたのは一面の夜空。三日月が空に優雅に佇み、幾千の星々は天ノ川を作り空を縦横無尽に煌めかせる。
体を起こしてみれば、そこは何処かの丘のようだ。萌えるような緑が優しく、ひんやりとした風と空気が心地よく頬を撫でる。

ふと、視界に薄桃色が映った。
後ろを振り向けば、そこには巨大な桜の木。
樹齢なんてものは存在しないくらいに大きいその木からは花弁が風と共に舞い散り続けるが、一向に花が無くなる気配はない。

その場から立ち上がり、桜の木へと歩く。
よく見てみれば自分の服が違う。寝る時に着ていた黒の浴衣ではなく、かつて戦場を駆け巡った頃の目が覚めるような青色の陣羽織と武具を着ているではないか。

暫く立ち止まっていたが、やがて考える方が大変だと気がついた為、再び桜へ近づく。

すると、一人の男が幹に身体をあずけて座っていた。

その男は幻想的な銀の髪と涼やかな翠の目をしており、薄紫、白、黒の三色を基調とした戦装束に身を包んでいる。傍らには細く長い刀が置かれている。


石田三成だ。




「…よぉ、石田。」
「…なんだ。随分遅かったな、伊達。」

内容を鑑みるに、どうやらあちらは自分を待っていたようだ。
大股で近づき、隣に座る。腰に携えた六本の刀は外して無造作に地面に置いた。

「お前、俺の名前覚えてたんだな。」
「あの時、関ヶ原でな。」
「あんときか。…懐かしいな。」
「貴様、いくつで死んだ。」
「あ?死んだ?どういうことだ。」

石田は少しだけ驚いて口を開いた。

「なんだ貴様、自覚がなかったのか。ここはあの世だぞ。」


「…は?」

あの世?あの世とはあの死んだ人間が逝く??

「貴様は死んだからここに来た。証人は私だ。関ヶ原のすぐ後にここに来た。」
「…まじか。じゃあ私は寝てそのままぽっくり来ちまったのか…?」
「自覚がないのならばそうなるな。」
「うわーーーーーまじかよ……。」

死んだことに気が付かないのも割と衝撃が凄い。

「…まぁいい。それよりも私が死んだ後の日ノ本はどうなった。聞かせろ。」
「あの後?あの後は家康が江戸に幕府作った。んでそこで政治して、家族作って、子供が出来て、私は家康の孫に長船光忠の太刀の燭台切光忠盗まれて、適当な男と跡継ぎ作って…って感じか?」
「随分と説明が雑なのは見逃すが、貴様にとって夫となった男は適当なのか。」
「あーほら、うちには最後の砦…最後の壁か。小十郎居たからな。結婚相手全員小十郎に負けたからはっきり言えばどうでもいいや。」
「…なら貴様の理想はなんなのだ。」
「んー…まず大前提で小十郎に勝てること。」
「だいぶ絞られてるぞそれ。」
「次に好き嫌いない人。私の飯残さず食ってくれる人。」
「なるほど。」
「で、私に勝てる人。」
「随分な無茶振りだな。…だがそれだけの条件に当てはまるのは武将位だろう。」
「そうなんだよなー。」

あの頃とは比べ物にならないくらい緩やかな会話。喋っても喋っても月は動かない。

「なら真田はどうだ。」
「あーあいつはダメ。まず子作り出来なさそう。」
「あぁ…」
「んでもって私の中での真田は『好敵手』でしかねぇからな。それ以上にも以下にもならねぇ。」
「長宗我部はどうだ。」
「国が傾く。却下。」
「…毛利」
「あいつの中じゃ『妻』も『駒』になってそう。故に却下。」
「なら誰ならばいいのだ。」
「…案外お前とか。」
「私?」
「意外と気遣い出来るし強いし飯は食わせがいあるし。」
「…ならば次に生まれた時は結納するか。」
「だな。…なぁ、三成って呼んでいいか?」
「構わん。私も政宗と呼ぼう。」


それからずっと喋っていた。
ある時は戦の話。
ある時は政務の話。
ある時は嘗ての仲間の話。

三成も楽しそうにソワソワして聞いていた。


どれくらい経っただろうか、突然空から眩い光が降り注ぐ。

「どうやらもう時間のようだ。…政宗、待っている。」
「…あぁ。私も待ってる。」

次の瞬間、そこには桜も夜空もなく、あるのはただの白い空間だった。
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