PEDAL
□白のリドレー
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箱根の山。私は、ここが好き。
「はー、喉カラッカラ」
500円玉を投入して、ポカリを1本買う。お釣りでもう1本買う。残りの小銭をコインケースにしまう。
私はいつも、2台目の自販機でドリンク補給をする。1台目の自販機には、いつも先客がいるからだ。
白のリドレーに乗る人が。
私が熱海から県を跨いでまで箱根に登りにくる理由は2つある。
1つ目は、クライマーの私にとっていい自主練スポットだから。
2つ目は、
「あ、行っちゃった」
ドリンク補給を終えて登りを再開すると、1台目の自販機にいつもいる白のリドレーが、音もなしに近づいて、追い抜いて行く。
2つ目は、あのリドレーに乗る彼を、1度でいいからこの目で見るため。
私が頂上へ着く頃には、彼はもういない。
帰りは別ルートのようで、降りてくる彼を見たことは1度もない。多分地元の人なのだろう。
私は、熱海から来たからには熱海へ帰らなければいけないので、同じ道を往復する。
7月。来月には、インターハイが開かれる。
毎年、ネットやテレビなんかでインターハイの情報は見るが、生では見たことがなかった。
今年は、割と近く、いつもお世話になっている箱根が舞台ということで、観戦に行こうと思ってる。
「あっつ、」
そうこうしているうちに、梅雨明けのカラッとした天気のせいで、もう2本目のボトルを空けてしまった。
1台目と2台目の自販機のちょうど真ん中あたりで、私は1度足を止めた。
ドリンク無しでこれ以上登るのは危険だ。命大切。
ということで、今まで登ってきた分を、1つ目の自販機まで戻ることにした。
もちろん今日も、そこには白のリドレーがとまっていた。
ギアを調整しつつ、ブレーキを所々でかけて降りて行く。
と、下から登ってくる1台のロードを見つけた。
それも、音もなく加速しているロードを。
「あっ!」
そんな走りができる人を、私は1人しか知らない。
白いリドレーの彼。
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2本のボトルにドリンクを補充し、私は一気にこの山を登った。いつもよりうんと速いペースで。
息が苦しい。早く会いたい。足が重い。早く頂上へ。
早く、早くあなたに会いたい。
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「はあ、はっ、はぁ」
頂上で私を出迎えくれた彼の瞳を、私はじっと見つめた。
ギアは9段目。こんな無茶をしてこの山を登ったのは初めてだった。
「会いたかった、ずっと。白いリドレーのあなたに」
「奇遇だな、オレもそう思っていたよ。青いリドレーの君」
たくさん彼と話をした。
ロードに乗り始めたきっかけ、通う高校のこと、友達のこと、チームメイトのこと、インハイのこと。そして、彼の走りのこと。
箱根の山神。私は、彼が好き。
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弱ペダ見始めたきっかけは山神。
山神はきっとキョンシーみたいな服着てるんだろうなあ…。()