Harly potter
□闇
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「…結局、今になっても私は父のしたことを理解できません。」
話終えて喉の奥から苦しそうな嗚咽を混ぜそう溢したルナは、俯いたまま顔を上げない。
泣いているのか、はたまたそれを堪えているのかスネイプには分からなかった。
ただひとつ分かることがある。
「なにを…そんなに怯えている?」
スネイプのその言葉にルナは見た目からも動揺しているのが分かるが、依然顔は上げない。
「…怖い。」
「何がだ。」
なるべく優しく問いただしてやり、スネイプは座っていた席を立つとルナの隣へと腰掛け顔を覗き込むように答えを待った。
「先生に…嫌われるのが…」
とうとう涙が溢れてしまった、ルナは今まで溜め込んでいたもののせきが外れたように止まらぬ涙を拭う。
「人殺しなんて、最低です。軽蔑されて当然の行いだから…でも、先生に黙ってたくなかった。」
スネイプは泣きじゃくるルナを引き寄せると、黒いローブに覆われた体でルナを抱き締めた。
「聞け、我輩は過去に一人の女性を見殺しにしてしまったことがある。我輩が殺したようなものだと、悔やむ毎日だった。」
胸にしまったルナの髪を指に絡め自分の顔をルナの頭に寄せると、愛しい女性だった。と呟く。
「我輩こそ汚れた人間だ。君が思っている程綺麗なものじゃない、人を殺すより卑しいこともしている。」
嫌うはずがないと遠回しに伝えればスネイプはルナの顎を指で持ちこちらに向かせ、濡れた赤い瞳を見つめた。
「…一人、死なせてしまったのなら一人守れと教わった。君も父以上に愛する人間を見つけて側に置いたらどうかな?」
こんな時にも邪心が生まれる自分を恥じる。
この頬を濡らした傷心の少女の唇を奪ってしまいたいと、赤く潤った唇を舌で割ってしまいたいと思う。
そんな愚行を行うものならルナはどうするのだろう、悲鳴をあげて逃げ去るのかはたまた快感に身をよじって喜ぶのか、スネイプはルナから放たれる女らしい甘い香りにくらりと視界を揺らした。
するとルナは震える手をスネイプの胸板に寄せ、自分から胸の中へと擦りより深い息を吐く。
「…いい匂い、落ち着きます。」
薬草、アルコール、男性らしい香りが混ざった独特のスネイプの匂い。
ルナはこれがたまらなく好きで鼻をかすめる度に意識がふわふわと浮くような心地よさを感じていた。
今はダイレクトに肺に届く、吸い込む息がスネイプの匂いなのだと思うと妙な胸の高鳴りが起こる。
流れていた涙はもう乾いた。
ルナはあまりの芳醇な香りに夢中になりスネイプに甘えるように抱きついている。
スネイプはもう理性の限界がきていた、この羽を背負う美しいルナをいつ押し倒しても不思議ではないほどに神経が張りつめており、頭の中はそれを制御することで満たされていた。
「…あまり、そのようなことはするものではない。」
「…嫌、ですか?」
悲しそうにスネイプの胸から顔を離したルナは上目遣いでスネイプを見上げる。
わざとやっているのかと思ってしまう程、煽られるその行動にスネイプは浅い息を続けた。
「そうではない、我輩と君の性別を考えたまえ。」
ここまで言われればさすがのルナも気がついたようで顔を真っ赤に染めスネイプから離れる。
初々しい反応、うなじまで朱色のルナをこれ以上目に入れておくのは毒だ。
スネイプはルナに落ち着いたか確認すると帰るようドアまで送ることにした。
「先生、ありがとうございました。」
「まだ、うなされるようなら来なさい。」
久々に笑顔を浮かべるとルナは少し俯き、頬をほんのり染めてスネイプを見つめる。
「父以上に愛する人を頑張って見つけます。」
「…そうしたまえ。」
締め付けられるスネイプの心臓、そのルナに愛される誰かが憎たらしくて仕方ない。
自分ではないことは確かなのだろう。
スネイプはルナの頭を撫でそっと屈むと、自分よりも低い位置にあるルナの額に口づけた。
「え…」
「…おやすみ。」
おもむろに閉じられる扉、ルナは惚けたようにそれをただただ見つめるしかできない。
おでこにキスをされた。この事実が頭に届く頃には口から心臓が出るほどの気恥ずかしさと嬉しさで身体中が赤くなる感覚がした。
スネイプを男性として意識し始めたのは正直今日が初めてだった、男性経験もない、異性への愛着がよく分からないルナにとってはこの感情は刺激的すぎる。
しかし、少しも嫌ではない。
ましてや感じたことのない胸の高鳴りと幸福感に頭がくらくらするほどだ。
これが、愛するという感覚なのだろうか。
しかしスネイプを愛したところで相手にされるか分からない、忘れられない人がいる上、教師と生徒という間柄簡単なものではないと思う。
ルナは胸の辺りのモヤモヤとした感情を拭うように女子寮まで走っていけば、そのままベッドに飛び込んだ。
今日はスネイプの夢を見たい。なんて思いながら。