Harly potter
□ポリジュース
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スネイプの部屋の前までたどり着けばうるさいほどに高鳴る鼓動、緊張で手汗をかき始めたがその湿った手をキュッと握ると前に突きだしドアをノックした。
すぐに開く扉、しばらく会話もしていなかったスネイプが目の前にいる。
ルナは本当はもっと話したいことがたくさんあった。
こんな薬の調合をしたとか、この前羽の色が変わる魔法を見つけたとか、しかし今はヘムロックの姿であるし、まずはスネイプの気持ちを知らなくてはいけない。
「なにか用かね?」
「あ、はい。先生に質問があるんです。」
スネイプはその言葉に怪訝な表情を浮かべたが、何も言わず自室へとルナを招いた。
「座りたまえ。」
言われたとおり腰を下ろすとスネイプは立ったまま視線をこちらに向ける。
「君が授業の質問に来たことなど一度も無いな、またミスセイントのことでも聞きに来たのかね?」
このスネイプの台詞にルナは肩を揺らすと、一瞬動揺したがチャンスだと思い急いで口を開いた。
「先生はセイントのことをどう思っているんですか?邪魔だと思う?」
なるべくヘムロックに話し方を似せてそう発言すれば黙るスネイプ、ルナは答えを待つ間心臓が痛くて仕方ない。
「邪魔だと、思っていると?」
スネイプがおもむろに薄い唇を開き沈黙を破ればルナはその問いに頷いた。
「邪魔だな。」
一瞬鼓動が止まるような感覚がした、涙も込み上げてきたが今泣くわけにはいかないのだ。しかし、そう言い聞かせれば言い聞かせるほど苦しくなる。
「グリフィンドール生である上にその翼の面倒まで見ているのだ、何かとものも訊ねてくる。」
黒い瞳を動かさずスネイプが言い放てばまた続けて口を動かした。
「…我輩に笑顔を向けて近づいてくる者など、今までいなかったものでな、なんとも…居心地が悪いのだよ。このような感情は面倒以外の何物でもないだろう。」
スネイプは一度話を区切ると俯いてしまっているルナの隣に腰を下ろし、慣れない手つきで頭に手をおいた。
「この感情が邪魔だと言っている。我輩に、愛着等と言うものは不似合いだと思わんかね、ミスセイント?」
ルナはバッと涙で濡れた顔をあげると自分の髪を見たがまだブロンドのまま、薬の効果は切れていないはずだ。
「どうして…」
そう訊ねればスネイプはルナを見つめたまま頬の涙を拭ってやり、ため息をついた。
「君の香りは独特なのだ。その上ヘムロックは我輩の部屋を訪ねては来ないのでな。」
一度告白をされて振ってから話しかけてこないと言われたのはそのすぐ後だ。
スネイプは座っていたソファーから離れると杖を振り紅茶を淹れ始め、それが終わるまでの間ルナを見つめた。
「積もる話はあるが、まず君をここまで追い詰めていたとは思わなかったな。ポリジュース薬まで飲むとは、我輩のやった薬をそんなつまらないことに使って良かったのかな?」
半笑いでそうこぼせばまたルナがショックを受けたような顔をし、スネイプは短くため息をつくと訂正をした。
「…我輩と話すことに価値などないだろう。新薬を作りたかったのではないのかね?」
「新薬なんて一ヶ月待てばまた研究できます…!スネイプ先生と話せることが私にはもっと価値のあることで、だがら…。」
上ずった声でそんなことを言われればスネイプは胸が締め付けられるような感覚がした。
堪らない気分になったところを紅茶の出来上がりの知らせで邪魔され、スネイプは深く静かに息を吐き紅茶をカップに注いだ。
「君が、我輩と親しくしていればヘムロック達が下らんことをするだろう。」
それを心配していたんだと言わんばかりに呟けば、ルナの前に湯気が立つカップを差し出し自分もカップに口をつける。
「誰に何を言われようと私は平気です。周りの目を気にして先生とお話が出来ないなんて理不尽だと思いませんか?」
言い終わった後、ブロンドの髪がみるみる漆黒へと染まっていき、背中には先ほどまでなかった羽が生える。
ポリジュース薬の効果が切れたのだ。
ルナはいつもの姿に戻ったことで翼がふわりと軽く広がり、それがスネイプに当たりそうになった。
スネイプはそれを手で受け止めると、手のなかにある艶やかな黒羽を転がすように撫でる。
絡む視線、ルナは赤い瞳をスネイプに向けたまま動かせなかった。
スネイプもまばたきを忘れルナの真っ白な肌から長い睫毛の先まで見つめる。
「…安心したまえ、我輩は君と話をすることが嫌いではない。」
そう一言だけ言うとカップを片してしまうスネイプをルナは不器用だと感じたのと同時にとてつもない優しさを感じた。
スネイプと一緒にいる時間の胸躍る感覚、離れてしまった空白の時間、そして今の心臓が締め付けられるようなときめきは、果たしてただ慕っている教師への感情なのかはルナには分からない。
「先生…私先生のことが好きです。」
思ったままを素直に伝えれば驚いたように素早く振り返るスネイプ、しかしそのルナの表情は普段と同じ穏やかな笑顔で小首を傾げている。
「…そうか。光栄だな、しかしあまりそのようなことは口にしないことだ。」
ルナの放った言葉は恋心故のものではないと感じたスネイプは、他の人間にも同じことを言ってしまっているのではないかという心配と、その台詞だけで心乱されてしまう自分を情けなく感じた。
ルナはこのあと授業を控えている、早くグリフィンドールのローブに着替え授業へ向かうよう言えばルナは素直にそれに従い入ってきたドアまで進むと、振り返りスネイプを見る。
「先生ありがとうございました。また、お邪魔させてください。」
恥ずかしそうに頬を染めそう言われれば断る理由等ない。
スネイプは何も言わずに小さく頷くと口元に薄く笑顔を浮かべルナを見送った。