Harly potter
□煩
2ページ/3ページ
降りしきる激しい雨、遠くで鳴る雷。
クディッチとしてのコンディションは最悪だがそれでも続行される試合は悪い天候に負けず劣らず、ボルテージはマックスだ。
グリフィンドールの観客席ではハーマイオニーとルナ、ロンがシーカーとして空を飛ぶハリーに黄色い声援を送る。
「クディッチってすごくおもしろいね!私もできるかな!」
強い雨の中、自然と大きくなる声でルナは叫ぶとロンとハーマイオニーは笑顔を向けた。
「君は箒いらないからきっと強いんだろうな!」
この言葉にルナは嬉しそうに笑ったが、ハーマイオニーがハリーに送っていた手叩きを止め上空を見上げ小さく囁く。
「ハリー…?」
ざわつく会場内、皆の目線の先には空から落ちてくるハリーの姿があった。
ルナは考えるより先に体が動いた。客席から立ち上がると力一杯飛び上がり、目にも止まらぬスピードでその黒い翼を羽ばたかせ、ハリーの元までたどり着いた。
見事地面に着くギリギリのところで受け止めると、そのまま静かにハリーを抱えてマウンドの上に着陸する。
グリフィンドールからは安心のため息と拍手が沸き起こり、その場にいた仲間たちは急いでハリーとルナの元へと走っていきハリーには担架が用意された。
そのまま医務室へと運ばれたハリーに着いていくハーマイオニーとロン、ルナの三人しかし、
「ミスセイント。」
冷たく響く聞き覚えのある声にロンとハーマイオニーの背筋に嫌な汗が流れる。
そこに立っていたのはスネイプ。顔からは分からないがきっと怒っている。
「来るんだ。」
真っ黒なローブが音を立て翻れば、ルナは申し訳なさそうな表情でふたりにアイコンタクトを送るととぼとぼとスネイプの後ろに着いていった。
「お前がそんなに出たがりだと思わなかったぞミスセイント。あれだけマダムポンフリーにキツく言われていたのを忘れたのか。我輩の今までの苦労を水に流して、気分はどうかね?」
自室の椅子に座らせたルナを見下ろす形でスネイプがそう罵れば、ルナは返す言葉もないようにうつむく。
全身が雨に濡れ、羽は痛々しく震え雫が滴り落ちる。縮こまってしまっているのはスネイプが怒っているからだろう。
スネイプは頭を片手で押さえながら深くため息を吐くと魔法でタオルを出した。
「これで拭くんだ。」
そう言い残しルナに背を向けるとスネイプは今までよりももっと強力な再生薬をこしらえようと準備を始める。
しかし、背中越しに聞こえる鼻を小さく啜る音。
静かに振り返ればタオルで顔を隠し気づかれないように泣いているルナの姿が目に入った。
こんな時スネイプはどんな言葉を掛けていいか等分からない。しかし、迷惑をかけないようにとしおらしく啜り泣く少女を見るのはスネイプでも心が痛むものだ。
スネイプはルナに近づき隣の椅子に腰掛けるとその濡れそぼった羽に触れた。
びくりと跳ねるルナの身体、宝石のような涙を頬に二粒つけたままスネイプを見つめればスネイプはルナに背を向けるよう指示をする。
「見せてみろ。」
その言葉におずおずと翼を広げれば、見た目には壮大で何の問題もないその羽。しかし、それを背負っている当人は浅い息を吐き、ブルブルと体を震わせながら痛みに耐えている。
スネイプはおもむろに手を羽の上で動かし、撫でるように全体を触りながら異常な箇所はないか探した。
そうすればルナは一度喉からしゃっくりのような音を出し、その後に深い震えたため息を吐く。
翼がなんとも心地よい安心感と不思議な暖かさに包まれ、ルナはその快感を目を閉じながら受け止めた。
スネイプがスッと手を離せばルナは小さく振り向く形でスネイプを見つめ、もっと撫でてほしいと訴える。
「…なにかね?」
「あの…もう少し触ってくれませんか?」
すごく気持ち良かったので。と続ければスネイプは驚いたように眉間を寄せたが、また静かに手を伸ばしその背を撫でてやる。
ルナは白かった頬を染め、すっかりリラックスしているように目を閉じた。
すると気持ちよさで自然と羽ばたいてしまう翼、バサリと大きな音を立てるとスネイプの顔をその黒翼が撫でた。
その感触はまるでシルクのように柔らかく、ルナの放つ女らしい香りに包まれ、スネイプは戸惑い故の自己防衛で立ち上がった。
「ごめんなさい、痛かったですか?」
「…構わん。薬を作る、待ってるんだ。」
不器用な返事を返せばまたルナに背を向け薬を作る準備に取り掛かる。
ルナは奥の部屋に消えていくスネイプを見送ると先程まで撫でられていた羽を小さく動かし、一人残された部屋でうっすらと微笑みを浮かべた。