Harly potter
□魔法薬学
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「あった。」
先程まで座っていた席にぽつりと取り残された教科書を手に取る。
どうやら見たところスネイプはいないようだ。
早く次の教室に向かわなくてはと踵を返そうとすると、足元でくしゃりと何かを踏んだ音がした。
視線を下げれば翼を広げた時に落ちた自分の羽。
ルナはそれを屈んで拾うとため息を吐き、背中の羽を最大まで広げた。
艶やかで濡れたような黒い翼は大きく、前に羽ばたかせればルナ自身を包んでしまいそうだ。
ここに入学して一度も広げていない翼だ、やはり堅苦しさにこってしまっている。
「痛…。」
おもむろに動かしてみると所々がギシギシと唸った。これは寝違えではなさそうだと思案し、静かに羽を畳もうとした時だ。
「何をしている。」
後ろで聞いたことのある声が聞こえ、ルナはギクリと振り向き声の主を見ればスネイプが立っている。
「ご、ごめんなさい。教科書を忘れてしまって。」
急いで広げていた背中のものをしまえば先程から感じていた痛みを遥かに越える激痛が走り、ルナは小さな悲鳴を上げ顔を歪めた。
これにはスネイプも眉間に皺を寄せルナとの距離を縮める。
「どうした、どこか悪いのかね。」
「っ…羽が…」
ルナがしゃくるような声で問いに答えればスネイプはその震える翼に控えめに触れた。
「痛むのか。」
「はい…。」
スネイプが手を離せばハラリと再び落ちる羽、仕方なしにマダムポンフリーの元まで連れ添うことにする。
「ごめんなさい。お手数を、」
「構わん。悪魔族には生え変わりの時期でもあるのかね?」
移動中、目も合わさずそんなことを言われればルナは弱々しくクスリと笑った。
笑うようなことは言っていないスネイプはおもしろくなさそうに横目でルナを見、ルナもまたチラリと送った視線がスネイプと絡んだ。
「…私皆より授業遅れてるんです。だから、分からないことを聞いてもいいですか?」
「…二度同じことは教えない、注意するよう心掛けるんだな。」
一瞬断られたのかと勘違いしてしまうような言い方だが、一度聞くだけなら許されるようでルナは嬉しそうに笑って見せた。
「よく笑うことだなミスセイント。何がそんなに可笑しいのだ。」
「先生は嬉しくても笑わないんですか?」
キョトンと見つめられれば、スネイプは居心地悪そうに目線を外す。
「めでたいことなど、何もないのでな。」
「じゃあ、先生にとって嬉しいことって何ですか。」
ことごとく嫌みを叩き潰すものだとスネイプは呆れる反面、不思議な感覚だった。
誰かとこんな世間話を交わしたのはいつ以来だと記憶を巡らせれば、救護室に到着したようでマダムポンフリーが忙しなくふたりの前に寄ってくる。
マダムポンフリーはルナをベッドに寝せると早速体の状態を診るようで、スネイプにもう結構ですと伝えるとスネイプもそれに従い、ローブを翻し再び扉に向かうとベッドからルナが呼び止めた。
「先生、ありがとうございました。」
屈託のない笑顔を向けられれば、スネイプはこれ以上ないほど眉間を寄せ、くすぐったそうにその場を離れる。
スネイプがツカツカと自室に戻る途中、魔法薬学の教室の床にルナの落羽が落ちているのが目に入った。
スネイプはそれを拾い手に取ると、その美しい黒い濡れ羽色の羽を見つめ、一瞬見とれてしまう。
悪魔と名のつく少女だが純なものだと鼻で乾いた息を吐けば、その羽を手に持ち自室へと消えていった。