本
□覚えてたんだ、
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あれは確か、11年くらい前の親戚の結婚式のときだったと思う。
子供用のタキシードを着せてもらって、まあまあそれなりに整えられた服装で突っ立って、すごく幸せそうな顔の新郎新婦を眺めていた。
『……すごいねえ』
『うん』
ここまではまだよかったのだが。
『なあ』
『んー?』
『とおるはさ、だれと結婚したい?』
今思い出せば、奇声をあげてベッドで暴れたい衝動に駆られる。
なんでだ。なんで言ってしまった、昔の俺よ。
『……うーん、おれはねー…
はじめちゃんと結婚したいなあ』
『…ほんとか?』
『うん!』
『じゃあ、おれたちがおとなになったら、結婚しよう』
本当に恥ずかしいのはここだ。
齢7にしてこんなかっこつけたプロポーズをしてしまうなんて、恥ずか死ぬ。ちょっと死にたくなってきた。
『…いいの?やったあ!じゃあ、ぜったい、約束だよ!』
子どもの純情ってこわい。
恥ずかしい思い出を振り払おうと横を向くと、カレンダーが目に飛び込んできた。
今日は19日、明日は、
…20日。
「…そうか」
誕生日だ。あいつの。
俺の大切な恋人の。
『おとなになったら、結婚しよう』
18歳。結婚も許される、充分なおとなだ。
俺は弾かれたように立ち上がり、財布を掴んで家を出た。
母ちゃんの慌てた声が聴こえたけれど、気にしてられなかった。
あいつのことだけ考えて、走った。