Story

□コーヒー
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ある日の楽屋にて
※先生目線


《せーんせ!おはようございます!
 そして〜お誕生日おめでとうございますっ!》

楽屋に入った途端、先に来てた類が
すっごい可愛い笑顔で駆け寄ってきてくれた

もうこれだけで、誕生日最高…って
思える先生はさすがにちょっと単純か?

〈お〜!おはよ。ありがと類〉

勢いよく走ってきた類に軽くハグしながら
お礼を言うと、ぎゅーっと抱き締め返してくる

いややっぱり最高だよ誕生日。いくつになっても。

《んふふ〜あっそうそう!コーヒー淹れますね!》

もうちょっとこのままでいたかったけど
あっさり腕から離れてコーヒーの準備を始める類

しかたない…うん…類だもんな

〈お、類が淹れてくれるの?
 美味しいんだろな〜楽しみだな〉

《僕コーヒー飲めないからなぁ……
 味見できなくて緊張するけど頑張ります…》

コーヒーってそもそも味見するもんだっけ

よしってちっちゃい声で気合いを入れて
ドリッパーにフィルターをセットする後ろ姿に
思わず笑っちゃいそうになる

だめだめ。こんな真剣にコーヒー
淹れようとしてくれてんだから

《………》

ほんとに真剣な顔で黙々と手を動かす類

…ふと思ったんだけど

〈類、コーヒー淹れたことあるの?
 なんか慣れてるみたい。手際いいね〉

正直すごい意外。
もっと悩みながらやるのかと思った

類がコーヒー飲めないのはもちろん知ってるし
前に俺が簡単なドリップコーヒー淹れただけで
喫茶店のオーナーみたいです!って
目キラキラさせてたくらいだったのに

いつの間にこんなテキパキできるようになったんだ?

そりゃまぁセットしてお湯注ぐだけなんだけど……

《昨日です。昨日アキラ先輩に付き合ってもらって》

〈アキラ?〉

《先生が帰ったあとアキラ先輩に教えてもらって
 はじめて自分でコーヒー淹れたんです》

なるほどね

〈ふぅーん、そうなんだ
 じゃあ類がはじめて淹れたコーヒーは
 アキラが飲んじゃったんだ。俺じゃなくて〉

《あ、いや、でもそれは練習で、》

俺の声のトーンが変わったのに気付いて
あわてて手を止めてこっちを向く類

なーんてね、うそうそ

〈ふふふ、ちょっと意地悪言ってみただけ
 先生の為にわざわざ練習してくれたの?うれしいな〉

ま、アキラが羨ましいのはほんとだけど。

ふぅ…って安心した顔して、また手元に視線を向けて
次はお湯をフィルターにゆっくり注ぎはじめる

《先生ほとんど毎日コーヒー飲むから
 これからは僕が、先生にコーヒー
 淹れれるようになりたいな〜って思って》

〈ほんと?じゃあこれからは100倍
 美味しいコーヒー飲めちゃうわけだ〉

お湯を途中で一旦止めて、
嬉しそうな顔でこっちを振り向く類

《100倍ですか?ふふっ、何年かかるかなあ》

類が淹れてくれるってだけで100倍美味くなるよ
って、言っても良かったんだけど
また真剣な顔して少しのお湯が注がれたフィルターを
じーっと見つめ出したから、黙っとくことにした

〈途中で止めるのが良いの?お湯〉

《蒸らすのがいいって…調べたら書いてて……
 この時間が美味しくするコツらしいんです》

言いながらもフィルターから目を離さない類

ほんと、そんな真剣にやってくれるなんて嬉しいな

……でも…

《わぁっ》

〈ふふっ〉

《せ、んせ…びっくりしたぁ》

類がこっち向いてくれないのが
なんとなくつまんなくなって
後ろから覆い被さるように腕を回したら
類の小さな肩がびくっと跳ねた

〈重い?〉

《そうでもないです》

類が軽く首を振ると
顔のすぐ横の髪からいい香りがする

《でも動きづらいです…》

〈でもほら、先生今日誕生日だし、ね?
 今日だけは許して〉

言ってから自分でも、子供みたいだ
なんて思ったけど…まぁいっか

《……今日だけなんですか?》

どうせまた今日も変わらず騒がしい
あいつらが来るまでの間、ちょっとくらい
誕生日満喫したっていいだろう

…って…

〈え?〉

《こうやって先生が甘えてくれるの
 今日だけなのかなぁって思って》

どこか残念そうな類の声

〈それ…って〉

なに動揺してんだ俺

《だから…いいですよ?僕は毎日でも》

こっちに顔を向けて、
ちょっと照れながら笑う類

……あーもう、この子はほんとに…

《あれ?先生もしかしてちょっと赤くなっ…ひゃ!》

類にまわした腕にぎゅっと
力を込めて、肩に顔をうずめたら
さっきより類の香りが強くなる

〈類が言ったんだから〉

多分いま俺ひどい顔してるんだろうなぁ

《ふふ、はい》

類の柔らかい声が聞こえて
胸がじんわりあったくなったのが分かった


ーーーーーーーーーー

コーヒー〈……〉




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