Story

□もうちょっと
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ある日のダンス練習にて
※タツキ目線


《わっ、たつき先輩っ!?》

〈……あっ…〉

るーくんが何か言ってる声が
やけに遠くに聞こえる

今日はるーくんと2人のラジオのお仕事が
終わって、それから近くのスタジオに寄って
2人で新しい曲の自主練習をしてた

僕からるーくんを誘ったし、
るーくんはもうすでに振りもばっちりだから
言っちゃえば2人で自主練習というよりは
完全にるーくんに、僕の自主練習に
付き合ってもらってる感じだった

スタジオに入って、着替えて、ストレッチして…
本格的に踊り出してから30分経ったくらいかな?

なんとなく頭がぼーっとして
いつもより軸もとれなくて
体がふらつく感じがするのに気づいた

ちょうどそのときくらいからるーくんも
頻繁に休憩をすすめてくれるようになって

今日はそろそろ帰りませんか…?

って、この短時間で多分3回くらい
言われたような気がする……

《だ、大丈夫ですか!?
 痛いところないですか?
 怪我っ…怪我は?あ、僕の声聞こえますかっ?》

体の違和感を知らんぷりして
踊ってたけど、やっぱりダメだったみたい…

サビに差し掛かったところで
自分でバランスがとれなくなって
体がぐわん、と傾いた

一瞬なにが起きたのか分かんなくて
でも気づいたら床に尻もちをついてて
肩をるーくんに支えられてて…

となりからるーくんの震える声が聞こえた

〈…あ…えっと、ご、ごめんね…大丈夫!〉

どうしようもなく不安そうに僕の顔を
のぞき込むるーくんを見た瞬間
はっとして、とにかくいつも通りの
テンションを意識して答えた

《………》

でもるーくんはじっと僕の顔を
見つめたまま黙ってる

眉は八の字に歪んで、目にはうっすら涙が浮かんで…

……って、えぇっ!な、なんで涙!?


〈いやっ、あの、るーくんっ?
 びっくりさせてごめんね?ちょっと
 つまづいちゃっただけだよ?ごめんねっ?〉

今にも泣いちゃいそうなるーくんを見て
どうしたらいいか分かんなくて、でも
なんとか安心してほしくて慌てて立ち上がろうとした

…けど

〈…っ……るーくん…!〉

隣で一緒に座り込んでたるーくんが
そのまま横からぎゅっと抱き着いてきて
立ち上がろうとした僕を止めた

びっくりしてるーくんを見るけど
僕の肩に顔をうずめてる
るーくんの表情は分からない

《…ごめんなさい…》

消えそうな声が聞こえてきて
思わず右の肩にのったるーくんの頭に
そっと手を伸ばす

そしたらるーくんがゆっくり
顔を上げてくれた

すぐ近くにあるるーくんの綺麗な瞳から
1粒、2粒、涙が落ちたのをみて
なんだか僕まで泣きそうになってくる

〈…泣かないで…類
 びっくりさせちゃったね…大丈夫だよ?〉

どうにかるーくんが落ち着くように
静かに頭を撫でながら声をかけてみる

こんな風にるーくんを泣かせちゃうなんて
僕はほんと、だめだな…

《ぼ、く…たつき先輩が…体調よくないの
 分かってた、のに……こんなに無理させて…
 ……ごめん、なさい…っ…》

僕にまわしてた腕をゆっくり解いて
うつむきながら言ったるーくんに
一瞬、まばたきも忘れて固まってしまった

え…なんで、なんでるーくんが謝るの…

〈違うよ!るーくんは悪くないでしょ
 僕がちゃんと判断できなかったから…〉

前にウィトっちが病院に運ばれたとき
メンバーみんながはじめて
見るくらい大泣きしたるーくん

あのときはウィトっちが無事だったことで
糸が切れたように涙が溢れたんだと思うけど

今、るーくんが僕の前で泣いてるのも
なんて言うか、突然僕が目の前で
倒れるみたいになっちゃったからびっくりして
でも大したことなくて良かったって…

とにかくるーくんは優しいから
きっとそういう涙なんじゃないかって
勝手に思ってた

でも違った…?

《だって…ずっといつもと…違った、のに…
 ちゃんと、休んで…もらえば…っ…》

ぽたぽた、るーくんが俯く先の床に雫が落ちる

……あぁほんとに…
僕が勝手に無理したせいで
るーくんが泣いてる…

どうしようもなく胸が苦しくなった

〈ごめん、ほんとにごめんね
 るーくんに練習付き合ってもらって
 だからなんとか早くものにしたくて
 勝手に焦って自分だけが無理して
 なんとかなるって思って…
 でもこんなにるーくんに心配かけちゃったね…〉

《……っ…》

こぼれてくる涙を手で拭いながら
ぶんぶん首を横に振るるーくん

〈擦ったら目腫れちゃう…〉

るーくんのほっぺを両手で包んで
俯いてたるーくんの顔を上げて視線を合わせる

るーくんの綺麗な白い顔も、泣いたせいで
鼻のあたりが赤くなって目も充血してる

〈ほら、赤くなっちゃってる〉

申し訳ない気持ちになりながら
すぐ近くに置いてたスポーツタオルで
るーくんの涙をそっと拭いた

《ありがと…ございます…っ…》

鼻をすすりながら小さな声でるーくんが言う

るーくんはいつも僕たちメンバーのこと
1番心配してくれて1番気遣ってくれる

心配かけてばっかりじゃなくて
もっともっと僕を頼ってもらえるように
なりたいって、ずっと思ってたけど

目の前でこうやって涙を流す
るーくんをみて改めて僕がちゃんと
守れるようにならなきゃって思った

〈ほんとにごめんね…〉

僕の目をまっすぐ見ながらまた
首を横に振るるーくん

るーくんに心配かけちゃって
泣かせちゃって…ほんとに早く治さなきゃ

……でもなんか…るーくんとこんな近い距離で
こうやって2人きりでいると、体調悪いって
こと自体すっかり忘れちゃいそうになるなぁ…

《あぁ!》

〈えっ!?〉

だんだん落ち着いてきたるーくんの頭を
ゆっくり撫でながら、そんなことを考えてたら
急に目の前で大きな声を出するーくん

びっくりした〜

《ごっ、ごめんなさい!たつき先輩
 しんどいのに僕…何してるんだろ…
 ほんとすみません!
 よし!はやく帰りましょう!はやく!》

今まで目を真っ赤にして泣いてたのに
勢いよく立ち上がったと思ったら
自分の荷物はもちろん、僕の荷物まで
あっという間にまとめてくれた

〈あ……ご、ごめんねっ
 ありがとう〉

《汗かいてないし、着替えないで
 もうこのまま帰っちゃいましょうか》

〈うん、そうする〉

《立てそうですか?まだしんどかったら
 もうちょっと休んでからでも…》

〈ううん、だいじょ……〉

……いやいや……うーん…

もう全然立てるし、熱は多分あると
思うけどそこまで高熱ってわけでもなさそう

今すぐ帰ることもできるだろうし
るーくんにこれ以上心配かけるのも……

とは思うのに、心のどこかで
いま僕のことだけをみてくれるるーくんと
もうちょっとだけ2人でいたいなぁ

なんて考えが浮かんでる

《たつき先輩…?
 や、やっぱりまだつらいですか?》

途中で不自然に言葉を切った僕を心配して
また僕の目の前まできて慌てて
顔をのぞき込んでくれるるーくん

〈…う、うーん…もうちょっとだけ
 休んでから帰ろうかな…?〉

《そうですね、そうしましょう
 僕何か飲み物とか買ってきます》

優しく笑ってから行っちゃいそうになった
るーくんの腕をとっさに掴んだ

るーくんがいてくれなきゃ意味無いのに…

《どうしました?
 やっぱりどこか痛いですか?》

〈いや、あの…頭…がちょっと痛いかな〉

《頭かぁ…しんどいですよね…
 早くよくなるといいんですけど…》

僕の言葉を聞いて、また
眉を少し下げたるーくんの手が
すっごく優しく頭に置かれた

…もう正直これだけで元気になった気がする

〈ありがとうるーくん〉

《僕はなにも…
 でも、もう無理しないでくださいね》

頭に置いた手をするりと耳のあたりまで
滑らせて、どこか困ったように
でもふんわり優しく笑ったるーくんに
心臓の音が一気に早くなった

〈え、あ、うん…気を付け、ます…〉

《あれ…たつき先輩さっきより顔赤いです
 熱上がってきちゃったのかな…》

そのまま手を首のあたりに当てられて
ぐいっと目の前までるーくんの顔が近付く

…あぁ…やっぱり熱があるときに
るーくんと2人っきりはちょっとまずかったかも

……いろんな意味で。

〈だっ、大丈夫!〉

《でもさっきよりずっと熱いし…》

〈それは、あの、熱じゃないっていうか!〉

《え?》

〈あ、いや熱なんだけど、そのっ〉

《…やっぱり相当きてるんじゃ…》

〈ちがうちがう!大丈夫だよ!〉

《………?》



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