Story

□甘える?
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ある日のラジオ収録終わりにて
※類目線

〈類…最近アキラと何かありましたか?〉

奏先輩と2人でのお仕事が終わって
僕が慌ただしく次の現場に行く用意を
してたら、急に奏先輩に呼び止められた

《え?アキラ先輩?…んー何も無いですよ》

アキラ先輩かぁ……

もちろん会うには会ってるし
普通に話すけど…そういえば最近
一緒に帰る機会も無かったし
ご飯にも行ってないし……

ほんとに何も無いな

〈…………〉

《奏先輩…?》

奏先輩が何か考え込んでる

〈なるほど…何も無いからか…〉

《なんの話です?》

〈いや……まぁその…〉

めずらしい……
なんて言ったらいいか迷ってるみたいな
曖昧な奏先輩の返事に首を傾げる

どうしたんだろ……

《アキラ先輩がどうかしたんですか?》

〈……ねぇ類、アキラにもう少し
 甘えてみてもいいんじゃない?〉

少しの間黙って、それから僕を
真っ直ぐ見つめてくる奏先輩

《……甘える?》

甘える…甘える…甘える……?

…………なんで?

〈小さいことでいいんです
 何かお願いごととか、困ってることとか…
 アキラをもっと頼っていいと思いますよ〉




……結局奏先輩の真意が分からない

なんでアキラ先輩なのかも
なんで急にそんなこと言うのかも

〈類ー〉

ん〜〜……わからん!

〈おーい、類ー?〉

《あ!はい》

奏先輩と2人のお仕事のあと
次は先生と2人でラジオのお仕事だった

ついさっきそれも終わって
皆さんに挨拶したあと先生が監督さんと
お話し始めたから、とりあえず
邪魔にならないように少し離れてから
今朝奏先輩に言われたことを思い返してた

〈今日はこれでおしまい?〉

でもそのお話ももう終わってたみたいで
ブースには先生と僕だけになってた

《はい!……先生はまだお仕事ですよね》

このラジオの収録前に、この後の打合わせは〜
ってスタッフさん達と話してるのを聞いた

〈そんな顔しないの〜
 仕事ってほどじゃないよ
 ちょっと打合わせするだけ〉

いつもの優しい声

でも、スタッフさんや監督さんと
いっぱい難しい話して
きっと僕よりずっと疲れてるのに…

《いつもありがとうございます》

いつもいつも、アルスの為にって
1人でたくさんのことをしてくれる

〈類のその気持ちだけで
 頑張れるよ、ありがとね
 さ、もう遅いからはやく帰りな〉

打合わせ…どれくらいやるんだろう……

《………待ってたら駄目ですか?》

〈……だーめ
 先生も類と一緒に帰りたいけど
 何時になるか分かんないし〉

…そっか…待ってるのも迷惑になっちゃうよね

《そう…ですよね…ごめんなさい
 じゃあお先に失礼します》

頭を下げてから部屋を出ようとしたら
ぐいっと腕を引っ張られて、
先生の綺麗な顔が急に目の前まで近づく

〈ほんとに、そんな顔しないでってば…
 先生打合わせなんかすっぽかして
 今すぐ帰りたくなっちゃうでしょ〉

先生のおでこがこつん、と
僕のおでこにくっついた

《それは…困ります》

先生ならほんとに帰っちゃいそうだ

〈……ふふ、正直でよろしい〉

目を細めて笑って、
ゆっくり先生の顔が離れていく

なんか……離れてから急に恥ずかしくなってきた…
今のすっごい近かったなぁ……

〈……ところで類、まさか1人で
 帰ったりしないよね?〉

《え?》

ん?全然聞いてなかった
帰り…?

〈こんな時間に1人で帰らないよね?〉

あぁそういう話か
でも……

《こんな時間って言っても〈もう12時まわってる〉

有無を言わさない先生の声色

《あ、はい…》

〈1人で帰るなんて危ないから絶対駄目〉

駄目って…ん〜……

《じゃ、じゃあやっぱり先生のこと待っ〈早く帰って寝ないと。疲れてるんだから〉

そんなぁ……

《えっと、じゃあ、えーっと》

〈ふっ、ふふふ〉

《せ、先生?》

僕が頭をフル回転させてたら
目の前の先生が楽しそうに笑い出す

〈ごめんごめんww
 焦ってる類可愛くて〉

《もう〜先生!》

またからかわれた…!

〈でも1人で帰るの駄目ってのはほんとだよ〉

《駄目って言われても…》

〈アキラ〉

《へ?》

〈アキラに迎えにきてもらったら?〉

《…なんでアキラ先輩?》

〈たまには甘えるのもいいんじゃない?〉

《また…》

またアキラ先輩……なんで?

〈また?〉

《奏先輩にも言われました》

〈あぁ…そうだったんだ
 ま、みんな思ってることは一緒ってことかな〉

僕の呟きに首をかしげた先生に
今朝のことを思い出しながら答えると
なんだか軽く笑いながら言う先生

《思ってること…?》

みんなが思ってることなの?

〈…とにかく、アキラに電話しておいで〉

そんなこと言われても……

《でもアキラ先輩今日お休みだし
 わざわざ呼び出すなんて…
 さすがに申し訳ないです》

アキラ先輩1人のお仕事も多いし
きっとお休みも久しぶりだったはず

〈休みだからだろー?
 類の顔、きっと見たがってるよ〉

《そんなの…明日も会えるのに》

ていうかほとんど毎日会ってる

〈それでも会いたいもんなの
 ほらほら先生かけちゃうよ?〉

《あっ、ちょ、先生!》

机の上に置きっぱなしにしてた僕の携帯を
ひょいっと取って、操作し始める先生

ちなみになんでか分かんないけど
メンバーみんな僕の携帯のロックを
一瞬で解除できるらしい

……パスコード変えた方がいいのかな…

〈ほい〉

先生がニヤリと笑って僕に向かって
投げた携帯を、慌ててキャッチする

《えぇ!ちょっと〈ん?類ー?〉

電話繋がっちゃってるしっ!

《あ!アキラ先輩、あの、お疲れ様です》

〈おう、おつかれー収録終わったの?
 先生の声もしたけど〉

いつもより少し低めのアキラ先輩の声
僕の大好きな声だ

《あ、はい!いま終わりました》

〈そっかー楽しかった?〉

《楽しかったです、みなさん優しくて》

〈……そ、良かった〉

心からほっとしたみたいな
アキラ先輩の声に、もしかしたら
ラジオのこと気にしてくれてたのかも
ってちょっと嬉しくなる

《…うん》

〈んで?どした〉

……えっと…

《あ〜えっと、何してるのかなって》

〈今?今は〜風呂〉

《えっ!あ、ごめんねお風呂中に!》

そりゃもうこんな時間だもんね
寝ててもおかしくないのに

〈いや今ちょうど上がったとこ〉

……えっと…

《そ、そうですか…もう寝ないとね》

〈んーまだ寝ないけど〉

……えーっと…

《そっか…》

〈ふふ、なんだよ〉

アキラ先輩が優しく笑う

《何が?》

〈なに緊張してんの〉

《緊張?…いや別に…してないけど》

……バレてる〜

…でもやっぱり……言えない……

〈ふーん
 んでもう帰れんの?〉

《あーうん、僕は》

〈先生は打合わせか〉

さすがアキラ先輩、よく分かるなあ

《そう》

〈先生大丈夫?ちゃんと起きてる?〉

アキラ先輩の困ったような笑い声に
つられて思わず笑っちゃった

《うん、起きてるよ》

〈変なテンションなってないか心配だけど
 まぁ任せるしかねーな〉

《うん》

確かにちょっと心配かも…

〈じゃ今から迎えにいくけど
 結局用件なんだったの?〉

んん〜…言えない…迎えに来てなんて…

《いやその…………え!!》

え!あれ?いま!え!?

〈え!なに!〉

《迎え…?僕を?》

〈それ以外に誰がいんだよww
 今日寒いから中で待ってろよ〉

いつも通りの笑い声で
当然のことみたいに言うアキラ先輩

《………》

〈類?〉

……今お風呂から上がったって言ってたのに
何の迷いもなく迎えに来てくれるって

なんでいつもそんなに優しいんだろう

《…あの…実はお願いしようと思ってて》

僕が何も言わなくても、いっつも
気持ちを分かってくれて助けてくれる

〈うん、何を?〉

《迎えに…来てほしいなって》

〈うん……ん?え、類がっ?〉

アキラ先輩がすごくびっくりしてるのが
声だけでも分かる

《それで電話したの》

かけてくれたのは先生だけど

〈……ちょっと、ゆってみて〉

《え?》

少し黙ったと思ったら
なんだか嬉しそうなアキラ先輩の声

〈俺にお願いするつもりだったんでしょ
 迎えに来てって言って〉

《な、なんで》

ん?急にいつものからかいモードになったぞ…

〈いいじゃん1回くらい、ほら!〉

……でも確かに
言わなくても分かってくれるからって
甘えてちゃ駄目だよね

いや、迎えに来てもらうこと自体
甘え以外の何者でもないんだけど

……でもちゃんと、
自分の言葉でお願いしなきゃ

《…アキラ先輩、あの、迎えに来て…ほしいです》

〈はいよ、喜んで〉

今まで言ったことないこと言うのって
すっごく緊張する……

でも今日1番の優しい声で
答えてくれたアキラ先輩に
自然と笑顔になる

《……ありがとう》

〈ん、さっきも言ったけど
 俺が着くまで中で待ってろよー〉

ほんとに優しいなぁアキラ先輩は

《はーい》


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