Story
□麗しい
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ある休日にて
※奏目線
am9:21
[椎名 類:奏先輩!青か水色どっちがいいですか?]
[椎名 類:あ!おはようございます!]
ずいぶん久しぶりな気がする連休の最終日
朝から部屋の掃除と洗濯を終えて
少しぼーっとしていたときに
類からのこのメッセージ
〈またこの子はいきなりだな…〉
[おはよう]
[何の色?]
[椎名 類:ひみつー!]
[椎名 類:です]
[椎名 類:(スタンプを送信しました)]
くまがニヤリと不気味に笑ってるスタンプ…
最近の類のお気に入りだ
そういえばアキラがこの前
類の使うこのスタンプが全然可愛くない!
と騒ぎ出して、いかにも女の子らしい
やたらとハートの多いスタンプを
一方的に類にプレゼントしていた
ちなみにその後、
そのスタンプ使うの俺だけな!
俺にだけな!
というアキラからのメッセージ画面の
スクリーンショットが類から無言で
送られてきたのをよく覚えている
類がアキラの要望通り、あのスタンプを
アキラ以外に使わないことにしているのか
そもそも使っていないのかは分からないが
……確かにこれは可愛くはない
まぁそれは置いておいて
なんだかご機嫌そうな類を想像すると
自然と少し笑顔になる
[そう、じゃあ青かな]
[椎名 類:はーい!!じゃあまた!]
[椎名 類:(スタンプを送信しました)]
〈あ…〉
可愛らしいネコのキャラクターが
たくさんのハートに囲まれ手を振っている
アキラがプレゼントしたスタンプだ
…これは…可愛いな……
いやそんなことより、
[連休はちゃんと休めた?]
せっかくメッセージがきたと思えば
用件が終わるなり実にあっさり
打ち切ってきた類に慌てて返信をうつ
〈相変わらずこういうとこはドライだ…〉
もしかしてもう携帯を
しまってしまっただろうか…
少し残念な気持ちでメッセージ画面を見つめてみる
と、
[椎名 類:はい!]
[椎名 類:久々に実家に帰ってるんです]
返ってきたメッセージにほっとする
でも…実家に帰ってるなんて初耳だ
別にそんな報告をする義務はもちろん
類には全くないが、その手の話は
自分から嬉しそうに話してくれるものだと
勝手に思っていた
連休に入る前、たつき先輩が類に
どこか行くのかと聞いていた時は
とくに予定はないと話していたはず
[そうなんですか]
[全然知りませんでした]
……ちょっと嫌味な言い方だったか…?
別におれ達に話さなきゃいけない
わけでもないのに
[椎名 類:ひとりで買い物に出てる時になんとなく思い立ったので、そのまま新幹線に飛び乗っちゃいました!]
[椎名 類:母もすごいびっくりしてました]
〈え……〉
[椎名 類:なんだかいたずらが成功したみたいで楽しかったです]
[椎名 類:(スタンプを送信しました)]
なんだ…そういうこと……
〈ふふっ〉
また送られてきた不気味な笑みのくまをみて
思わず1人で笑ってしまった
[そりゃびっくりするでしょうね]
[実家でゆっくりできたなら良かった]
[もうこっち戻ってるんですか?]
[椎名 類:今ちょうど地元の駅に着いたとこで]
[椎名 類:これから新幹線で帰ります]
[気をつけて帰ってきてくださいね]
[あと、寝過ごさないように]
[椎名 類:…気をつけます]
[椎名 類:(スタンプを送信しました)]
ハートに囲まれたネコから
ありがとう、と吹き出しが出ている
おれ相手でも普通に例のスタンプを
使ってくれるのをみると
どうやらアキラの要望は
聞き入れられなかったらしい…
[じゃあまた]
[椎名 類:はーーーい(´∀`*)]
あれから約3時間
お昼の12:00過ぎ
類はちゃんと
寝過ごさずに帰って来れただろうか
[類、無事に着いた?]
[椎名 類:奏先輩すごい!タイミングぴったりです!]
[椎名 類:今降りたとこです!]
[良かった、おかえり]
[新幹線お疲れ様]
[椎名 類:ありがとうございます!ただいま〜]
[人多くない?大丈夫?]
[椎名 類:今日が週末なのすっかり忘れてました]
[椎名 類:お腹すいたけど…人が多くてなかなかお店にも辿り着けません(・Θ・)]
〈………〉
どういう感情だその顔…
[お店って類の好きなベーグルの?]
[椎名 類:よくわかりましたね!そうです!]
以前、類がメンバーみんなにと
買ってきてくれたベーグルは本当に美味しかった
確かそのとき東京にはまだ
1店舗しかないと話していたし
その1軒はあの駅の新幹線を降りた
改札付近にあったはず
[どんなのがあったっけ?]
[椎名 類:たーくさんありますよ!]
[椎名 類:個人的にはチーズのが1番おすすめです〜]
[椎名 類:でもチョコとかベリーの甘いやつも美味しいし……]
なるほど……
[おれも食べたくなってきました]
[椎名 類:明日買っていきましょうか?]
[ありがとう]
[でもいいです]
[椎名 類:そうですか…?]
[椎名 類:いつでも買っていくので言ってください(・ε・)]
またいまいち感情の分からない顔文字に
思わず首をかしげてから
目の前の人混みに意識を向ける
……おそらく眼鏡で…
…いつもの黒のリュックだろうか…
見慣れた顔を探す
白の大きめのカーディガン、
黒のリュックに茶色の眼鏡
自分でも少し驚くほど、あっさり
人混みの中の類の姿が目に入る
よし、見つけた
一方の類の視線はおれがたった今
出てきたお店の壁面、大きなベーグルの
写真の上を滑っているのが分かる