Story

□リクエスト作品V
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ある日のダンス練習にて
※目線移動あり


〈…………〉

今日はタツキックと類がラジオの仕事
だから、その2人(と1匹)以外のメンバーで朝から
いつも通り練習してついさっき解散になったとこ

んで先生と泉はラーメン食いに行くって帰ってった

俺も行こっかなって一瞬思ったけど、今日は
なんとなくもうちょい動きたい気分だったし
そういえば昼飯もラーメンだったし
スタジオ閉まる時間まで適当に体動かすか!
っつーことでひとり残るつもりだったんだけど……

〈…………〉

スタジオの端っこにはパクもいるわけで…
それも、魂抜けましたって顔して。

まぁ今日は朝からいつもの10分の1以下の
テンションだったし、さすがにこれは
なんかあったなぁってのは分かったけど

でもパクが言いたくねーことなら無理に聞くのも
違う気がするから…あえて気付かないフリしてた

泉も先生も、多分おんなじ気持ちだったと思う

〈…アキラ先輩……〉

お?話す気になったか?

〈んー?〉

〈1発殴ってくれませんか……〉

〈…は?〉

え?

〈いや1発と言わず、もう僕なんて、ほんと……〉

〈えっ?ちょ、なんだよ、どしたんだよ〉

〈僕が、僕が悪いんです全部〉

〈パクお前…まじでどうした?何があったんだよ〉

ここまで落ち込んでるパクは初めてだ
俺で力になれることならいんだけど…

〈……実は…一昨日のことなんですけど……〉




一昨日は新しい曲の初回の振り写しの日だった

先生が考えてきてくれた振りは今回も
やっぱりカッコ良くて、
その分いつもより複雑で…

でもいつもなら難しくたって
メンバーみんなで完璧に踊れてるとこ
想像したらワクワクして楽しみで
ちょっとくらい大変でも全然頑張れる

なのに一昨日は、個人的に何曲か
振りをつけなきゃいけないのがあって
そっちがなかなか浮かばなくて焦ってたのと
同じ原因で極端に寝不足で
正直ずっとイライラしてた

そんな僕にいち早く気づいて、類は
いつもと変わらないあったかい笑顔で
ちょっと休憩しよう、とか
焦らなくてもうぃとなら大丈夫、とか
とにかくほんとに優しく声をかけてくれた…

それなのに……

相変わらず覚えが早くて、先生の動きを
いちばんに完璧にやってみせる類を見て
類はそうやってはじめから何でも
できちゃうから焦る僕の気持ちなんて
きっと分からないんだ…って
類はいつだって余裕があるから
休憩しようなんて言えるんだ…って

そんなことばっかり頭に浮かんできた

それで僕が類に対していつもより
冷たい態度をとっても
やっぱり類は変わらず優しくて……

なんで…そんな風にいられるんだよ


イライラが収まらないまま練習は解散になった

いつもはみんなと一緒に帰るけど
この日ばっかりは誰とも話す気になれなくて
黙ってひとりでスタジオを出た

でも気付いたら後ろには類がついてきてて

無理しないで欲しい、
ちゃんと休まないと駄目だ、って
ぽつりぽつりと話しかけてくる類の
優しい声にすら素直になれなくて
僕はついに言っちゃったんだ

〈……もうほっといて〉

自分でもびっくりするほど低い声だった

《ほっとけないよ…》

〈休んでる場合じゃないときだってあるんだよ〉

《ねぇ、うぃと、そうやって無理して詰め込んでやったって…〈類には分かんないよ!!〉

思わず大きな声が出た

類の言おうとしたことがあまりに図星だったから。
自分でもいちばんわかってることだったから。

無理して詰め込んでやったって
いいモノなんてできない……ってこと

僕の大きな声に、後ろの類が
息をのんだのが分かった

《……分かってない………
 分かってないのはうぃとの方だよ…》

慌てて振り返ってももう全部遅くて……

走ってく類の後ろ姿と
消えそうな声が今もずっと頭から離れない

……本当は全部知ってたのに。

類ははじめから苦労知らずで
何でもできるわけじゃない
人一倍努力してるのを僕は痛いほど知ってる

たとえ自分に余裕があったとしても
いつでも周りの人のことを1番に考えて
何かできることはないかって
走り回るような子だってことも知ってる

……僕はなんてひどいことしちゃったんだろう




〈なるほどな〜〉

怒るわけでもなく、ただ静かに
最後まで話を聞いてくれたアキラ先輩

〈もうほんと僕最低だ…
 類にどんな顔して会ったらいいんだろ……〉

もちろん謝りたい…
でも怖くて…この3日間連絡できずにいた

1日休みをはさんで、今日もこうして
別々の仕事だったから
余計にタイミングを逃しちゃった

〈はぁ〜……ばっかかお前〉

〈はい、ほんとに…〉

〈ちげーよバカ!言っちゃったもんは
 しょうがないしそんなときもある!
 そんなことより、そうやってパクが
 うじうじしてる今も、類はきっと
 パクに悪いことしたってへこんでんぞ〉

〈……っ!〉

アキラ先輩の言葉に、
まさに目が覚めたって感じだった

〈いっつも一緒にいるんだから
 喧嘩のひとつやふたつあって当然だろ
 ひどいこと言っちまったことなんかよりも
 類の今の気持ち、考えて
 やれねーならお前はほんとのバカだ〉

アキラ先輩の言う通りだ
結局は自分のことしか考えてなかった

〈そう、ですよね…ほんとだ…ほんとに僕、バカだ…〉

〈分かったらさっさと動く!
 俺はひとりでかっこよく特訓したい気分なの!
 ほら、出てけ出てけ〉

僕はほんとに人に恵まれてる

誰1人失いたくない大切な人達だ
……もちろん類だって

〈…アキラ先輩〜〜ありがとうございますっ!〉

〈へいへい〉

そっぽ向いて適当な返事をするアキラ先輩に
しっかり頭を下げてスタジオを飛び出した

……は、いいんだけど
今から類とタツキ先輩のいる放送局まで
タクシーをとばしたところできっと
2人のラジオ本番までに着くのは無理だろう

ちゃんと顔を見て、目を合わせて謝りたい

その気持ちはもちろんあるけど
今すぐとにかく類の声が聞きたかった

直接謝るのは本番終わりまで待つとして
まず電話してみるか……?

いやでももう打ち合わせに入ってるかも……

…そもそも僕からの電話なんて
出てくれるんだろうか……

…………はっ!違う違う!!

また自分のことばっかり…
もし類に嫌われてたらって思うと
それがどうしようもなく怖いんだ

でもいつまでもこのままなんて
その方がずっと嫌だし、怖い

タクシーの通りが多そうな大通りに
移動しつつ携帯をぎゅっと握りしめる

〈とにかく謝るとにかく謝るとにかく謝る!よし!〉

ひとりで気合を入れて
思い切って携帯を耳にあてた




Prrrrrr...…Prrrrrr……

静かな楽屋に着信音が響く

〈……るーくん?携帯鳴ってるよ〉

机に顔を伏せてるるーくんに
声をかけるけど反応はない

《…………》

〈ねぇるーくん…〉

朝からずっと、
どうしたの?何があったの?
って聞きたかった

でもスタッフさん達がいるところでは
絶対笑顔を崩さないるーくんを
みてるとどうしても聞けなかった

楽屋に2人きりになってやっと
るーくんがずっと必死に貼り付けてた
笑顔が消えて、それから机に
突っ伏したまま動かなくなった

こんなるーくんを見るのは初めてで
情けないけど…何て声をかけたらいいのかも
わからなくて、ただ側で様子を
見てることしかできなかった

《……たつき先輩…》

顔を伏せたままのるーくんから
掠れた声が聞こえる

〈うん?〉

《お願い…します……電話、出て…?》

〈るーくん……〉

ゆっくり顔を上げたるーくんの目は
少し赤くて…泣くのを我慢してる時の顔だ…

実は奏くんからついさっき、

[今日の練習、パクの様子が変でした]

[あそこまで落ち込んでるのを見ると
おそらく類関係だろうって
先生とも話してるんですけど]

[類は大丈夫そうですか?]

ってメッセージがきた

それでやっと、るーくんがここまで
つらそうなのは相手がウィトっちだから
なんだって納得した

Prrrrrrrr……Prrrrrrr…

机の上のるーくんの携帯に目をやると
やっぱりウィトっちの名前が表示されてる


……そんなにつらいなら
今は何も話さなくていいし
電話だって出なくていいよ


そう言ってあげたくなったけど、
それで結局もっとつらくなるのはるーくんだ

〈……わかった
 落ち着いたらちゃんと自分で話せるよね?〉

《…はい》

〈うん、えらいね
 じゃあ出るよ〉

暗い声だけど、しっかり頷いたるーくんをみて
僕もちゃんと頷いてから携帯を手に取った


〈もしもし!〉

〈あ!!…ん?あれ?えっと……タツキ先輩…?〉

ちょっとガッカリしたような
ウィトっちの声

〈うん、そうだよ!
 ウィトっち、練習お疲れさま!
 どうしたの?〉

できるだけ何でもないように
振る舞ってみるけど、
代わりに電話に出るって言っても
何話したらいいんだろう…

〈あ、お疲れ様です…えーっと……その…
 類…いますか?〉

〈あぁ!るーくんね!うん!
 あのーそのーいるよ!いるんだけど
 今ちょっと手が離せないって言うか
 なんて言うのかな、えっとね
 代わりに用件聞くよ!僕!〉

あ〜!ダメだぁ〜

ウィトっちの、今まで
聞いたことないような元気のない声で
余計に動揺しちゃう

やっぱり奏くんが言ってたとおり
相当落ち込んでるんだなぁ……

〈代わりに?……そう…ですか〉

〈……う、うん〉

〈じゃあ類に伝えてください
 ……とにかくごめん、って〉

なんだか聞いてるこっちが
泣きそうになっちゃうくらい悲しい声

それだけるーくんをおもってるんだ
って痛いほど伝わってきた

ちらりと隣のるーくんを見ると
僕が耳に当ててる携帯を
緊張した様子でじっと見つめてる


……ウィトっちはこんなにるーくんのこと
思ってるんだもん

きっとるーくんだって同じだけ
ウィトっちのこと大切におもってる……

これは、ちゃんと直接
聞かせてあげなきゃだめだ

そう思って携帯を耳から離して
スピーカーモードにする


〈ほんとにぜんぶ僕が悪くて……
 類はなんにも悪くないのに
 それでも類はきっと…
 ずっとつらい思いしてて
 僕、そのことにすら気付けなくて
 自分のことばっかで……
 もし…類にもう嫌いだって
 会いたくないって…言われたら…
 って、思うと…すごいこわくて……〉

ほんとにこんなウィトっちはじめてだ…

《うぃと……》

震える声を必死に抑えながら
話してるようなウィトっちの言葉に
隣のるーくんが小さな声を漏らす

〈え…類…!?〉

《…うぃと…言わないよ
 嫌いなんて、会いたくないなんて、
 そんなの言うわけない》

〈類……
 僕…ほんとにごめん!
 ひどいこと言って、ごめんなさい〉

心からホッとしたような様子でるーくんの
名前を呟いたあと、また謝るウィトっち

《ううん、もういいの
 ……僕もごめんね
 うぃとだって分かってたことなのに
 わざわざやなこと言おうとしてごめん
 …でも……でもね、うぃと》

〈うん…?〉

ちょっとだけ言うのを迷うみたいに
黙ってから、静かに話し出するーくんに
ウィトっちも小さく相槌をうつ

《うぃとにどうしても分かってほしかったの》

〈あのとき僕に、分かってない
 って……言ってたこと?〉

《うん、そう…
 あのね、うぃとに分かってほしかったのは
 休むのと逃げるのは違うよってこと》

〈…休むのと逃げるのは…違う……〉

ゆっくり繰り返したウィトっちに
優しい声で話し出するーくん

《僕も、うぃとやみんなに
 気づかせてもらったんだよ

 1回休憩して、周りをみて、
 だってうぃとには助けてくれる人が
 たくさんいるんだもん
 その人達にも…それから僕にも
 ちょっとは頼ってよ……それは
 逃げることとは違うんだよ、うぃと》

〈類……〉

《うぃとは責任感も強くて頑張り屋さんで
 みんながうぃとに任せるし、期待もする
 だから自分がやらなきゃって
 いつも思ってくれるんでしょ?》

〈う、ん……
 任せられることも期待してくれることも
 嬉しいのはほんとで…〉

《うん、うぃとは期待した分以上のこと
 いつもやってくれてる。信頼してるよ
 でも…いっぱいいっぱいに
 なっちゃったときはそう言ってほしい》

〈言っても…いいの?〉

《当たり前でしょ
 誰だって休憩しながら進むもんだよ
 って、これは先生の受け売りだけど…
 でも休んだって大丈夫なんだよ
 それは逃げ出すこととは全然違う》

〈……どっかでずっと止まっちゃダメな
 気がしてた…焦ってた…のかも…〉

《うん…そっか、話してくれてうれしい》

〈…はぁ…やっぱすごいや類は……
 ……ありがと類…ほんとに〉

《泣かないでよ?うぃと》

〈いやっ、な、泣いてはないけど!〉

《ふふふ》


ふぅぅぅ……これで仲直りかな?

あ〜〜よかったぁ〜〜…

るーくんもウィトっちも、お互い
譲れない何かがあったから
きっとぶつかっちゃったんだよね

何ていうか…うまく言えないけど
相手に伝えようって必死になったから
こそのケンカなんだって分かって安心した!

いっつもほんとに仲良しな2人だから
これからもそうでいてくれなきゃ
困っちゃうもんね

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