Story

□今日くらい
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ある日のコスメン終わりにて
※奏目線

《よし、奏先輩これ飲んでください》

〈どうしたんですか急に〉

《さっき楽屋のおにぎり食べてませんでしたよね?
 これなら食べれますか?》

〈いや、だからなんで急に〉

コスメンの放送が終わった瞬間、
類が何故かポカリとゼリーをぐいぐい押し付けてくる

《ゼリーでも駄目ですか…?
 うーん…じゃあどうしよう…薬飲むなら
 少しは食べた方がいいし…》

薬…!なんで……
もしかして表に出てしまってただろうか
慌てて生放送中の自分の言動をふりかえる

いや、いつも通りできていたはず…
途端に不安になってくる

〈え!泉体調わりぃの!?大丈夫か?〉

〈そうだったの!?大変!熱は…?〉

でも、アキラとタツキ先輩の
この反応を見てホッとする

良かった…きっとメイトさん達にも
気付かれていないだろう

〈奏先輩!大丈夫なんですか!?
 僕全然気づかなかった…ごめんなさい〉

〈泉、そういうことは今度から
 先に言ってくれよ?無理するな〉

パクがしゅんとする
おれが気付かれないようにしてたんだから
当然と言えば当然だ

朝からずっと体調が悪くて家を出るときも熱があった

でも、自分で行けると判断したからには
メンバーにもスタッフにも迷惑は
かけたくないとあえて黙っていた

〈パク、謝らなくていいから
 おれが黙ってただけなんですから。
 すみません、これから気を付けます〉

《喉にはきてないみたいですね
 他には?頭痛とかは?
 ゼリー少しでいいから食べてください》

テキパキと食べ物と薬を用意する類に、
先生もおれ達も思わずフリーズする

《ほら何してるんですか奏先輩
 早くポカリ飲んでくださいっ》

〈あぁ、はい…〉

《ねぇうぃと、マネージャーさんに車
 用意してもらえるようにお願いしてきて》

〈わ、わかった!〉

《奏先輩、寒くなる前にこれ着てください
 ……って、あ…駄目かサイズ合わないですよね…》

類が自分の戦闘服をおれの肩に
掛けようとして困った顔をする

すると後ろからふわっと何かが肩にかかる

〈特別だぞ?〉

〈うおー!泉やっぱ似合うな白衣!
 ってそんな場合じゃねぇか……〉

アキラの目が一瞬きらきらして
またすぐ真剣な顔に戻る
まあそれは置いておいて

〈ありがとうございます先生
 でもそんなひどい訳じゃないですから
 大丈夫ですよ〉

先生に白衣を返そうとした手を類に握られて
さらに冷たい手が首に当てられる

《駄目ですよ、こんなに熱あるのに…
 これからまだ上がると思うし、そしたら
 きっとすぐ寒気がくるから着ててください》

心から心配そうな表情の類を
見るとそれ以上は言葉を返せず
大人しくこのまま借りておくことにした

類に言われるがままたくさん水分を摂り
ゼリーを少し食べて薬をのんだ

《とりあえずここに横になってください》

〈ちょっとパクだけじゃ心配だから
 先生も事情話してくるな〉

〈飲み物なくなりそうだし俺買ってくる!〉

〈僕も!冷えピタも探してくるね!〉

みんなの声がぼんやりと聞こえる

だんだん頭がぼーっと
してきて目の前がぼやけてくる
熱も結構上がってきたらしい

類が言った通り先ほどから
寒気がとまらないし全身がだるい
ソファに横になったまま
体が地面に沈んでしまいそうな感覚になる

左手がひんやりと何かに包まれるのを
感じ、ゆっくりと目を開ける

《ごめんなさい起こしちゃいました?
 ちょっとでも楽になるかなって思って…
 僕、手だけは年中冷たいんです!》

確かにひんやりとして気持ちいい

いつもの何倍にも感じられる
重たい腕を上げて眼鏡をはずし
類の手を自分のおでこに持っていく

《僕以外誰もいないから、今は寝てていいですよ》

そのまま頭をそっと撫でられ再び目を閉じた

類のことは、一番に守ってあげなくちゃ
いけない存在だと思っているのに
こんなとき真っ先に全部を見透かされて
たくさん心配させてしまって……

おれはなんて頼りないんだろう

《奏先輩…もう寝ました?》

こちらをうかがうような小さな声が聞こえる

重い瞼を上げることができず
目を閉じたまま耳を傾けていると
しばらくして類が静かに話し出す

《奏先輩がいてくれたから僕、 今日の
 コスメンもすっごく楽しくできました
 熱があってきっとしんどかったのに
 それでも頑張って来てくれて
 ありがとうございました》

〈えっ……〉

あまりに予想外な言葉に思わず
うっすらと目を開く

《あ!寝てていいですよって言ったのに〜

 ……まぁでも、聞こえてたならもうひとつ
 今度からはもっと頼ってください

 休むことが全てじゃないって僕は思います
 今日みたいな日でも、奏先輩がやれるって
 言うなら僕は全力でサポートします
 みんなもきっとそうです。でもそれは
 奏先輩を信じてるからこそできることです

 だから奏先輩ももっと僕たちを
 信じて頼ってください》

………ほんとに。 類には敵わない。
いつだったかアキラも同じようなことを言っていた

類の言ってることはもっともだ
自分でいけると判断したからこそ、
事前に周りに状況を話しておくべきだった

《ふふ、奏先輩もしかして反省してる?》

またゆっくり頭を撫でられる

《いっつも完璧な奏先輩のこんな姿
 見れるなんて今日はちょっとラッキーです
 あ!怒らないでくださいねっ》

類の声を遠くに聞いて
何バカなこと言ってるんだと言いかけたが
妙な安心感と共に訪れた睡魔に
邪魔をされて結局声にはならなかった


〈冷えピタ貼ったらさすがに起きちゃうよね〉
〈そだなー起きてからにした方がよさそうだな〉

ガチャ

〈類ー!車!あと10分くらい《しぃーー…!》
〈あ!ごめん…!奏先輩寝てるの?〉
〈良かった、うなされたりはしてないな〉

《はい、頭なでなでしてたら
 結構すぐ寝てくれました》

〈〈〈〈え、あ、頭なでなで…!?!?〉〉〉〉


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