CPなしとうらぶ

□夏の終わりを食べる
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徐々に夏の日差しが和らぎ、涼しい風が吹くようになった頃のこと。

「もう夏も終わりだね」

そう言いながら金色の隻眼を細めた本日の畑当番・燭台切光忠の手には、艶やかな紫色をした茄子があった。

「………」

同じく畑当番である大倶利伽羅はちらりと視線を向けただけだったが、その手には収穫したばかりのいんげんが入った笊が抱えられている。

現在2人はそろそろ旬が終わってきた夏野菜を収穫している。最近の畑当番の仕事はもっぱら収穫だ。

「収穫したら…おいしく、料理してあげようか」

「…いつも思うがその言い方はやめろ」

「ん?このほうがおいしくなる気がするんだけどな」

「そんなわけ…」

あるか、と続けようとした大倶利伽羅は、そう言う燭台切の手の中の茄子がさっきより艶やかさを増した気がして何とも言えない気分になる。ぴかぴかと日の光を弾いて輝いている茄子から目を逸らし、大倶利伽羅は一杯になった笊を縁側に置きに立ち上がった。

その時。

「「わっ!」」

室内から2人の刀が勢い良く出てきた。

「………」

「ちょっとぐらい反応しろよー冷たいなあ加羅坊は」

「そうだそうだーつまんねえぞー」

無反応の大倶利伽羅に、出てきた2人ーー鶴丸国永と太鼓鐘貞宗はむくれる。

「鶴さん?貞ちゃんも。何してるの?」

こちらに気付いた燭台切が籠に大量の茄子を抱えて近寄ってくると、鶴丸と太鼓鐘はぱっとそちらを向いた。

「聞いてくれよみっちゃん!」

「加羅坊が冷たいんだ。昔はあんなに素直だったのに」

太鼓鐘が飛びつくようにして燭台切に訴え、鶴丸がよよよ、と泣き真似をする。大倶利伽羅が憮然とした顔をしているのに苦笑しながら、燭台切は茄子の籠を笊の隣に置いた。

「2人がからかうからだよ。ほら、暇なら収穫手伝って」

「「えー」」

ぶー、と文句を言う2人にさっさと軍手を渡しながら、温厚な隻眼の太刀はまだ憮然としている大倶利伽羅に笑いかける。

「加羅ちゃんは向こうのおくらを取ってきてくれないかな」

「…分かった」

ぼそりと返事をして大倶利伽羅は立ち上がった。

「加羅ちゃんはみっちゃんだけには素直だよなー」

余計な事を言う短刀の頭は一発叩いておいた。





「こうして見ると随分収穫したもんだな」

「早く収穫しないと食べ頃を過ぎちゃうからね」

本丸の厨に集まった伊達の刀達の前には、茄子やいんげん、おくら、南瓜、里芋、ピーマンなど晩夏によく取れる野菜が所狭しと並んでいた。

「今日は肉もあるし、ご馳走だな!」

「この肉だけじゃ足りないだろうけどね」

太鼓鐘の視線の先には、山伏国広がどこかで狩ってきた猪の肉がある。

食欲旺盛な刀達が50人以上集う本丸では、肉はいつでも争奪戦になる。そんなわけで、いかに野菜も食べさせるかが厨当番の腕の見せ所だ。

「献立はどうする」

本日の夕食の厨当番も兼任している大倶利伽羅が口を挟んだ。

基本的に厨当番はある程度料理ができる刀だけで回しているため、全員ある程度腕がある伊達の刀はよく当番に入っている。

「まず天ぷらは欠かせないよね!あと、味噌汁も欲しいし、茄子は煮浸しも」

もう1人の夕食の当番・燭台切が嬉しそうに指を折って数える。

「あとは煮っころがしもだな」

「ただ茹でるのもいいよな!」

残りの2人は今日は厨当番ではないが、このまま夕食の準備をするつもりらしく、一緒に献立を考えている。

「肉は単純に焼くか」

「それだけじゃなくて煮込みも作ろう」

「煮込み?間に合わんだろそりゃ」

「だーいじょうぶ。圧力鍋ってもんがあるからな!」

「主に頼んでこの前買ってもらったから、煮込み料理は楽になるよ」

わいわいと言い合いながら着々と献立を決めていく4人は、なんだかんだ言って息が合うようだった。





味が染み込み色濃くなった茄子の煮浸しに花のような断面が可愛らしいおくらの味噌汁、塩茹でして甘みを引き出した里芋やいんげん。里芋はタレでてらてらと光っている煮っころがしにもなった。そして黄金色の衣を付けたピーマンやいんげん、おくら、茄子、南瓜の天ぷらが今、次々と揚がってきている。

「………」

大倶利伽羅は黙々と美しい野菜が乗った大皿を並べていた。基本的に寡黙な彼は無言だったが、その顔を見れば機嫌がいいことはすぐに分かる。

「へへへ、肉だー」

隣では同じく上機嫌の太鼓鐘が、猪肉の甘辛煮を皿に盛っている。いくつかの大皿に色濃くタレが染み込んでいる肉が大量に盛られている光景は、中々に見応えがあった。

「おーい、炭火の準備ができたぞ」

庭で残りの猪を焼くための準備をしていた鶴丸が厨に顔を出す。

「じゃあ、もう焼き始めてくれる?加羅ちゃんと貞ちゃんも、もう食卓の準備をしておいてくれないかな」

燭台切が振り向いて応えた。天ぷらを担当していた彼の手には、揚がったばかりの野菜が乗った新聞紙がある。

「おう!」

「………」

「分かった!」

3人はそれぞれ自分の役割をこなすべく動き始めた。





「好評みたいだね、よかった」

「…ああ」

味噌汁や白米のお代わりにすぐに対応できるよう、厨に一番近い場所で並んで食べていた燭台切と大倶利伽羅は、わあわあと賑々しい本丸の仲間達や周りと何か話しながらも料理に箸を伸ばしている審神者を満足げに眺めていた。

この本丸では基本的に全員が顔を揃える夕食の時間が一番賑やかになる。大いに食べ、飲み、笑いあっている光景は、人の体でなければ体験できないものだ。

何も言わないものの、この光景にひっそりと感謝した大倶利伽羅は、茄子の天ぷらに塩を付けてかじった。

まだ熱いそれは、噛んだ途端にさくりと衣が割れ、とろりとした茄子が口の中に溢れる。茄子と衣の甘み、香りが塩と融け合った。

「…うまい」

今年最後の夏の味が喉の奥に消えていった。


 

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