CPなしとうらぶ
□暇つぶし探し
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「ねえ」
「何」
あくびをした大和守安定は、だらだらと現世の雑誌を眺めていた加州清光に声を掛けた。
「暇」
「あっそ」
素振りでもしてきたら、と言われた大和守は鼻に皺を寄せる。
「ええー」
暇ー、とごろごろと転がった大和守は、そのままごろごろと相方の隣まで移動した。
「というかお前も暇してんじゃん」
「…まーね」
先程から雑誌をめくる手が止まっている加州は、溜め息をついて体を起こす。
「で?何か暇つぶしの案でもあんの?」
「ない」
「即答かよ」
「ぶっちゃけさっきから蝶を目で追うくらいしかしてない。それ以外やることがない」
「昼寝するとか」
「それ考えたけどさー、こういう時に限ってまったく眠くないよね」
「ありがちありがち。…どっか行くの?」
よっこいしょ、と立ち上がり縁側に出た大和守を見て、首を傾げた加州も一緒に立ち上がった。
「暇つぶしの種を探しに行く。何、清光も来んの?」
「俺も暇なんだって」
こうして本日の非番である2人の暇つぶし探しが始まった。
「今日の非番って誰がいたっけ」
「えー誰だっけ」
とりあえずは同じく非番である刀を探すことにした加州と大和守は、当番表を確認するために大座敷に入った。
食事時には大勢が集まる大座敷は、昼下がりである現在はがらんとしている。だが、その座敷の隅で、大の字になっている刀が1人。当番表からすると、彼も非番らしい。
「おーい」
「………」
声を掛けても返事がない。
「返事がない。ただの屍のようだ」
「言うと思った」
呆れた顔で相方を見た加州は、大の字になってひっくり返っている刀ーー同田貫正国に視線を戻した。
「寝てる」
「寝てるね」
「「………」」
ちょっと考えてから、2人はそろりと近寄ってみた。
「今日の寝顔は穏やかだね」
「この前はすごい皺寄せてたよな」
慣れ親しんだ仲間の気配であるためか、近付いても反応しない同田貫の寝顔に和んだ加州達はそろりと離れる。
「ゆっくり寝てねー」
「おやすみー」
当番表も確認し、大座敷に用がなくなった2人は、再び縁側に出た。
「あ」
「え、何?」
「非番組発見」
加州の視線の先を辿った大和守は、庭の桜の枝に座ってあくびをしている白い刀を見付けた。
「おーい」
「お?」
こちらもこちらでとても暇そうだった鶴丸国永は、大和守が声を掛けた途端に振り返った。退屈を紛らわせることができると思ったのか、金の瞳がきらめいている。
「どうした?」
「いや、何かあるわけじゃないけど」
「見付けたから声掛けただけ」
そばまで行った2人がそう言うと、残念そうな顔になった鶴丸は枝の上からぶら下がった。
「あー…、退屈だ」
「僕らも暇なんだよー」
「退屈で死んでしまいそうだ…」
「いや死なねーよ」
思わず突っ込んだ加州に、鶴丸はぐりんと顔を向ける。
「死ぬ」
「…怖い怖い怖いから!」
「いっっだだだだだだ痛い!」
無表情を向けられ、思わずその顔を押し戻した自分は悪くない、と加州は思った。
何か驚きを届ける道具を作りに行くという鶴丸と別れ、2人はまた非番の刀を探し始めた。
「あの3人、何してんだろ」
「何か工作?」
庭に面した少し大きめの部屋に、画用紙と新聞紙を広げて何かしている前田藤四郎と平野藤四郎、今剣がいる。加州達に気付いた3人はこちらを見た。
「何やってんの?」
「金網で絵の具を飛ばして絵を描いているんです」
「すぱったりんぐ、というんですよ」
「型紙で模様を作るんです」
口々にそう説明した短刀達が見せてくれた画用紙には霧吹きで吹きかけたような柔らかな色が動物や花を形作っている。
「へえ、かわいいじゃん」
「面白いね」
「加州と大和守もやりますか?」
「絵の具が飛ぶので新聞紙の上でやると良いですよ」
興味を示した打刀達に、今剣が画用紙を渡してくれる。平野が机の上に敷き詰められた新聞紙を指差した。
「やるやる」
「暇だったんだ」
加州と大和守がいそいそと座ると、歯ブラシと金網、型紙が入った箱が渡される。
「歯ブラシに絵の具を付けて金網に擦り付けるんですよ」
「そうするとえのぐがとぶんです」
「自分で型紙を作ったりもします」
「じゃあ後で型紙も作ろうかな」
「やりようによっては凝ったものも作れそうだね」
では早速とばかりに絵の具を飛ばし始めた2人を見ながら、前田がにこにこと笑う。
「お2人は仲がよろしいですね」
「「仲良しではない」」
スパッタリングに集中しながらも、そこだけは即座に否定した2人だった。
「なんやかんや時間潰れたね」
「まあ、工作が時間掛かったし」
結局日が暮れるまで短刀3人とスパッタリングをしていた2人は、夕飯を食べるべく大座敷に移動していた。
出陣や遠征で留守にしていた面々も帰ってきており、大座敷付近は賑やかだ。先程一緒に絵の具や新聞紙などを片付けていた前田達もそれぞれの親しい刀達と共にいる。
「ま、平和が一番だよな」
「…そうだね」
いつも通りのあたたかな光景に、2人はのんびりと足を踏み入れた。