愛情1リットル108円
□7:現在進行形で迷ってる
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あのフワフワした、ちょっと目を離すとどこかへ消えてしまいそうなマイペース真波が王者ハコガクを名乗る自転車競技部のレギュラーだと知ったのはつい二日前。
今俺は数ヵ月ぶりに顔を合わせた先輩たちと共に神奈川県立市民体育館に来ていた。理由はもちろんインターハイ県予選大会。
久し振りに着たユニフォームに少しテンションが上がる。
今日は2試合ある。
場内に入って荷物をまとめて置いてストレッチしてからボールに触ると今日は何だか調子がいいみたいで自然と笑顔になる。
それから公式アップの時間になって順にレイアップから初めて軽く体を動かした。
うん、やっぱり調子がいい。
他の運動部は強いのにハコガクバスケ部は弱い。
そんな不名誉な認知をされているお陰でどの学校にも警戒されず、弱いってすごいななんて思ってクスリと笑ってしまう。きっとどの学校にも偵察されてないしデータ集めなんかもされてないんだろうな。
試合が始まって、俺は先輩より目立たない程度に動いた。まだ目立っちゃ駄目だ。
先輩に頑張ってもらって、それでも第4クオーターの時点で18点ビハインド。それとなく、なるべく目立たないように点を取り返した。
一回戦は危なげ無く、俺が目立つこともなく無事に終わった。
二回戦は少し強そうなところだった。
試合が始まってビックリしたのはレフェリーの見えないところでラフプレーが激しかったこと。
俺は三回エルボーを食らいそうになって腹が立ったからファール&バスカンの4点プレイをしてやった。
そのあとまたエルボーを食らいそうになったからやり返しておいた。こればかりは仕方ない。俺だって痛いのヤダし、人の痛みが分かればもうしないでくれ。頼む。
そうして二回戦も突破。
特に何もしてない、普段練習もしない先輩たちはまぁこんなもんかと満足げだった。
その後、現地解散して俺はなんとなく千葉に向かった。
ぼんやりと歩いて着いた先は墓地。
その中でも、何度も通って見慣れたお墓の前に立つ。
俺がバスケを始める切っ掛けをくれた大事なお前。
ライバルとして努力の糧になってくれたな。バスケのすべてに置いて一度も勝てたことは無かったな。
俺はいつだってお前の背中を追い掛けるのに必死で、それなのにお前はどんどん先に行ってしまうんだ。
追い付いたことだって一瞬もなくて、きっと今でも追い付けてない。
いくら走っても、そこから手を伸ばしてもお前の姿さえ見えない、そんな感じ。
掴めるなんて夢のまた夢で、俺はいなくなったお前を追い掛けるのが義務のように思って、日々努力していた。
でも、少し。
少しだけ、揺らいでしまったんだ。
うちにおいでよと真波に言われて。
故障して、バレーが出来なくなって泣いてた俺に新しい居場所をくれたお前を重ねてしまったんだ。
今のバスケ、すごくつまらないんだ。
一緒に努力してくれる仲間も、練習終わりにファミレスに寄ってくれるような仲間もいないんだ。
チームプレーを一人でするのはつまらないし悲しいんだなぁ。初めて知ったよ。
だから、自由に飛び回る鳥のような真波に、ちょっと期待してしまって。
なぁ、もしお前が生きてたら何て言ったんだろうな。
分からないよ。