愛情1リットル108円

□4:お昼寝と初めまして
1ページ/1ページ

とても温かい陽射しだった。

ぬくぬくだった。

だから寝た。

スヤスヤと気持ちよく寝て、チャイムが鳴ったから目を開けた。

するとバチっと視線が合って。

俺の隣の席の男子生徒は、机に頬杖をついて楽しそうに俺を見つめていた。







「こ、こんにちは」

目が合ったのがなんとなく気まずくて俺はへにょんと眉を下げて困った顔で挨拶をしてみた。

するとその男の子は可愛い顔を可愛らしく笑わせて挨拶を返してくる。

「こんにちは」

…………………………えーっと。

外れない視線に冷や汗が出る。ていうか誰だろうこの子。転校してきてから朝はバスケ、昼休みもバスケして放課後もバスケをしているから友達と呼べる人もまだいなくてまぁそれでも困らないからいいかなって思ってたけど、友達はいないしクラスの人の名前さえ覚えてないし、いい加減この状況どうにかした方がいいかな…。

突き刺さる視線に耐えきれずキョトンと首をかしげると可愛い顔をした彼はニコリとキレイな笑顔で口を開いた。

「バスケ、好きなの?」

え?

不思議に思っているとそれ、と彼が指をさす。彼の指が向く所を見るとそこには俺のペンケースがあった。半透明のシンプルなプラスチックのペンケースには開けば見えるように蓋の裏に今流行りのバスケ漫画のキャラとバスケットボールのステッカーが貼ってあって、これじゃあバスケ好きというよりただのオタクじゃないか、っていうか俺がオタクだってバレたのかな…と思いながら肯定を示すためにコクンと頷く。

すると彼は嬉しそうに笑って。

「そっかー。バスケやってたりする?」

その問いにまた頷いて。

「うん」

「へぇー。ポジションは?」

「えっと、オールラウンダー」

そう答えると彼は俺のペンケースに貼ってある某キセキの世代金髪の背番号7の彼を指さして笑う。

「こいつと同じだ〜」

「知ってるの?」

目を丸くして聞くと緩い笑顔が返ってきた。

「知ってるよ。オレこの漫画好きだもん」

まさかこんな可愛い、下手したらメンズファッション誌に載ってそうな少年から漫画が好きなんて聞くと思わなかった。人間見た目によらないな。

「良くんはこいつが好きなの?」

彼はやっぱり金髪モデル設定のキャラを指さしながら言う。ていうか俺の名前知ってたんだ。

俺はペンケースのステッカーをじぃっと見つめてピッと指さした。

「そいつも好きだけど一番尊敬してるのはこいつなんだ」

俺が指さした人は某キセキの世代No.1シューターで緑の髪の人。

ていうか正直この金髪モデル設定の男が現実にいたら優しくできないわ。完璧すぎて腹立つ。バスケの才能わけろ。

「どこからでも必ずシュートが入るってすごいよね。俺の理想だ」

俺もスーパーロングレンジスリーポイントシュート入れてみたい。現実は厳しいけど。それにしても技名長い。

隣の彼に笑いかければボケッと顔を凝視されてそんなにヘンな顔してたかなぁなんて思って拗ねた顔をしたら少し慌てたように言われる。

「オレ真波山岳」

「山岳?変わった名前だねぇ。かっこいい」

俺の名前は知ってるようなのでよろしくね、とニコニコ笑って見せてなぜかお昼ご飯を一緒に食べる約束をした。







午前授業、4限が終わって隣を見ると一緒にお昼の約束をした彼は机に突っ伏してスヤスヤと可愛らしい寝息を立てて寝ていた。

彼の呼吸に合わせてアホ毛はゆらゆら揺れて本当に可愛い…えっ何このアホ毛生きてるの?めっちゃ動いてる…。

でもお昼だ。ご飯だ。俺は容赦なく真波の背中を揺らして声を掛けた。

「おい真波ー。まーなーみー。起きてよ、ご飯食べよ」

しばらく呼び掛けるとぴょこん!とアホ毛が揺れて彼はゆっくり目を開けた。やっぱこのアホ毛生きてる。

「あ。良くん。おはよう」

「ん、はよ。真波もう昼休みだよ。真波はお弁当?」

「そうだよー。オレ、弁当」

「そ。じゃあ早くソレ持って。時間無くなる」

「え?」

俺は目をパチパチさせる真波を急かして自分のご飯の、今朝寄ったコンビニで買ったチーズちくわと海草サラダ、それとデザートコーナーで迷いに迷って決めたフォンダンショコラが入ったレジ袋を持って小走りで弁当の包みを片手に持った真波の手を引く。

そして着いた先は第二体育館。ほとんどの使われていなくて第一、第三体育館より小さい。

俺はポケットから出した鍵を大きな鉄のドアに差し込んでぐるりと回す。

ドアはガチンッと音をたてて開いて、俺は鉄のドアをガラガラと引いた。

「ホラ、こっち」

キョロキョロと辺りを見回す真波の手を引いて部室に入る。

「なにここ!」

「男バスの部室」

「いつもここでご飯食べてるの?」

「んー」

「だから昼休みは見当たらないんだねー」

そんな会話をしながら部室の真ん中に置いてあるベンチに腰を下ろして二人並ぶ。

真波はにこにこしながら弁当の包みを開いて弁当箱を開ける。

俺はレジ袋からチーズちくわを取り出して一緒に入れられた割り箸で食べ始めた。

「良くんソレなに?もしかしてご飯?」

聞かれてこくりと頷けば真波は驚いたような顔をする。

「そんなんでお腹すかないの?オレだったら無理〜もたないよ」

「コレだけじゃないよ。あと海草サラダとフォンダンショコラあるし」

「少ない上に女子みたいだね!」

「よし、戦争だ」

恨みも込めて真波の弁当からちくわの磯辺揚げを一つ、奪って口に放り込む。

おいしい。

咀嚼して飲み込むと真波に呼ばれてそちらを向く。

「はい、あーん」

すると自分の箸でもう一つの磯辺揚げを挟んでこちらに差し出す真波がいて、俺は遠慮なくぱくりと食べた。

「おいひー」

「良くんはちくわが好きなの?」

「ん。好き」

チーズちくわも食べ終わって海草サラダに梅ドレッシングをかける。

なんだかコレで会話を終わらせるのも申し訳なくて俺は真波に質問をする。

「真波は何が好きなの?」

「坂!」

「は?」

「あと山!」

「…………………oh」

よく分からない返答がきてなんて返すのが正解なのか。ていうか食べ物の話してたんじゃないんだね、ビックリした。

考えていると真波はスラスラと語りだした。

「オレね、坂を登ってるときが最ッッ高に“生きてる!”って感じがして好きなんだ!」

生きてる?

ふんふんと嬉しそうに鼻歌を歌いながらご飯を口に運ぶ真波を見て俺はまた少し考える。

「俺もあるわ。“生きてる”って思うとき」

そう口にすると真波は箸を止めてキョトンとこちらを見る。

元々ツリ目がちの大きな目が見開かれてビー玉のような透き通った綺麗な青いソレが今にも零れ落ちそうだ。

そんな真波を可愛いなんて思いながら話を続ける。

「俺、つらいのも苦しいのも嫌なんだ。運動部だけど極限まで頑張るとか苦手でね。真波みたいに頑張って“生きてる!”って思ってるわけじゃないんだけど…うーん?何て言うか…」

まとまらない言葉に詰まって眉を下げて笑って真波を見つめる。

「相手が頑張ってるのに自分は余裕で点稼げると、気分いいでしょ?えっと、だから俺は相手を出し抜いた時が一番“生きてる”って感じするよ。相手がどんなに必死に、ボールに向かって手を伸ばしても、その手が俺に届く頃にはもうボールはリングをくぐってる、って時。あぁ、やってやったってね」

するとそれを聞いた真波はまあるい目をさらに丸くして驚いたような顔を見せる。

「良くんって……意外と良い性格してるんだね?」

「そんなことないけど…」

そこで、俺も真波もご飯を食べ終えて俺はゴミが入ったレジ袋を部室の隅に置いてあるゴミ箱に捨てて立ち上がる。

「良くん、どこいくの?」

「ん。練習する」

自分のロッカーからバッシュを取り出して体育館の方に出ていく。真波も俺の後ろをひょこひょことついてきて、振り返って彼と目が合えばにへらと可愛らしく笑われる。

「オレもまぜて!」

「ん。じゃあ1on1ね。勝負だ真波」

「えー?勝てるわけないじゃん!」

「バスケ部じゃない真波に負けたら俺が困るし勝てなくていいんだよ」

「なにそれ。練習にならなくない?」

そう言って申し訳なさそうに眉を下げて頭についたアホ毛も心なしかシュンと下がる。そんな真波を目を細めて眺めて、呆れて笑う。

「俺が楽しいから良いんだよ」

ふっと息を吐くように笑うと真波はまるで見惚れるように固まってしまって、どうしたんだと声を掛ければ何ともなかったかのようにんーん!と満面の笑みを浮かべて。

素直に綺麗だと思ってしまった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ