愛情1リットル108円
□3:憧れは緑の彼
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朝早くの体育館。誰もいないだだっ広い空間に響くのは床とバッシュの擦れて起きるスキール音と、ダンダンという固いボールが床に打ち付けられる音。
数回、ボールを弾ませてからスゥッと集中してフリースローラインから軽く跳ねてボールを放った。
ボールはキレイな弧を描いて、リングに触れることなくパサッとゴールをくぐる。それから一歩下がってシュートを入れて、また一歩下がってとそれを繰り返して段々ゴールから遠ざかってシュートを決める。
どこからでもシュートを決められる人間になりたい。
バスケは点数が全てだ。速さが全てだ。高さが全てだ。技術が全てだ。努力が全てだ。速さと高さを持ってしてなお技術に努力して、それらを制した者が勝利の名を冠する。
俺にはまだ、まだ足りない。
ゴールから約18メートル離れたところで息を吐く。
ゴール下では力勝負に強くない。ドリブルでかっこよく切り込むのもそこまで得意じゃない。唯一、才能を見出だせたのはシュートだった。どこから打っても成功率は同じ。特にクイックリリースが得意で、クラッチシューターとしても頼られた。訳あってこの無名バスケ部の箱根学園に転校してきたがここに来る前は割りと名の知れた強豪バスケ部のある学校で一年ながらレギュラーを張っていた。
この学校、部活に不満があるわけじゃない。
ただ、俺を固めるのにこの部活のメンツは弱い。
この学校は全国的にも強いと誇れる自転車競技部があるから他のスポーツ部も強いで有名だがバスケ部は違う。
まず人数が少なかった。
でもまぁいくら弱くても俺がインハイに連れてってやるぐらいの心持ちだが些か心ともない。
こんなのでインハイ行けるかなぁ。予選落ちしそー。
こくんと首をかしげて片手でぽいっとボールを放り投げる。するとボールは吸い込まれるようにゴールリングを抜けて床に落ちた。
てんてんと転がるそれを眺めて自分が勝ち続けるためにどうすればいいか考える。
やっぱり助っ人かなぁ。
俺ワンマンプレーは好きじゃないし。
でも助っ人なんて頼める人がいないしそもそもバスケが強ければみんなバスケ部に入ってるでしょ。
なんだかモヤモヤしてきて近くに転がっていたボールを拐うように拾ってドリブルして、ぐっと脚に力をためて思いっきりジャンプした。
リングに叩き付けたボールは、所謂ダンクシュートで心が少し高揚したように感じた。
無名のバスケ部を優勝に導くのも楽しそうかなぁ。
そう思い直して自分のボールハンドリングの分析をする。
やっぱり利き手と違って右手のボールハンドリングが拙いな。
ムシャクシャしてゴールに向かってボールをぶん投げた。
ボールは直線的に飛んでバックボードにぶつかってコロン、とゴールリングをくぐってパサッと音を立ててネットを抜けた。
コレが試合なら、点数になってた。
チームを勝ちに導く、二点になってた。
無名高をどこまで勝ち進められるか分からないけど、せめて県ベスト4あわよくばインハイ出場。
俺は強い。はず。
「ここに来て約一ヶ月…」
肩を並べたい奴がいる。
だから俺は今日もボールを投げる。
目指すは某週刊少年誌で連載されてるバスケ漫画の緑色の髪をした彼。チームNo.1シューター。
彼は大変な努力家で、俺も彼みたいにひたすら練習すればいつかそうなれるような気がして。
でも、俺には彼と違って相棒と呼べる人間がいなくて。
一人の練習が、何だか寂しかった。