愛情1リットル108円
□2:オレから見たら
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〜真波side〜
今、この箱根学園自転車競技部には少し変な噂がある。
それは毎日噂されて、日に日に好奇心や期待が混じったものになっていった。
そして今日も部室にくると先輩たちが例の話をしていてオレはこちらに背中を向けて着替えていた荒北さんの後ろからひょこり顔を出してニコニコ笑う。
「先輩たちまたその話してるんですかー?」
意図的だが突然出てきたオレにみんな驚いて荒北さんはオレの頭にズビシっとチョップを入れた。
「真ぁ波!ビックリするじゃねーか!!急に出て来ンなバァカ!!!」
彼は相当驚いたようで、本当に先輩をからかうのは楽しい。
叩かれた頭を押さえてすみませんーとヘラヘラ笑えば遠慮なく舌打ちが返ってきて、オレはもう一度笑う。
それからやはりへらりとした笑顔のまま話の続きを聞くため、東堂さんに話を振る。
「そーいえば見付かったんですか?レモンの持ち主」
レモン。
随分可愛い名前だがまごうことなきロードバイクのメーカー名だ。
しかもレモンとか言いつつフレームカラーは黄色じゃない。蛍光ピンクに蛍光グリーンのラインが入ったかなり変わっていて奇抜で目立つカラーリング。多分あの色はオーダーメイドかな。レモンなのに黄色じゃない…ものすごい裏切られた気分だ。
そしてこれこそ最近流行りの変な噂で、ある日突然自転車置き場にレモンが現れて、ロードがあるってことは途中からとはいえ自転車競技部に入るのでは、と囁かれて早いものでもう一ヶ月。レモンの持ち主は自転車競技部に来るどころかどこの誰か、学年さえ分からない。
しかもレモンは朝はオレらの朝練より早く自転車置き場に置いてあるし夜はオレらの部活が終わっても自転車置き場に置いてある。
むしろ持ち帰ってるのか不安だ。でもメンテナンスはきちんとしてるようでいつ見てもピカピカ。
オレも割りと持ち主に興味がある。もしかしたら坂が好きなのかな?
どうしよう坂がすごく速い人だったら。
なんて思ってて。
オレの質問に東堂さんは首を横に振って否定を示す。
「いや、やはり何の手がかりもないわけだしな。見つからん」
「ですよねー。ロード持ってるなら早く入部すればいいのに…もしかしたらすごく速い人かも知れませんよー」
ニコニコと言えばやっぱり気になるよなーなんて新開さんが呟いて、オレは早く着替えろと荒北さんに怒られた。
いつか会ってみたいな、レモンの持ち主。