咲く花

□05
1ページ/4ページ


遺跡マニア血が騒いだのか、導師としての血が騒いだのかはわからないけれど、レディレイクを探索し始めて少し過ぎた時、水車を超えた先にある広場で、従業員の一人が地下に入ったきり帰ってこないという話が耳に入ってきた。

私たちはその話を聞いて、戻ってこない人が心配というお兄ちゃんの一言から地下へ足を運んだ

「スレイさん、感じるのですね」

「うん、街中より断然汚れてる感じがする」

「本当にスレイさんは素晴らしい才能をお持ちですのね」

「導師の力が馴染んでる証拠だよ?お兄ちゃん」

「へー、そうなんだ」

「導師たる真の能力開放もそう遠くないかもしれません」

「それってどういう能力?」

「あいた!すみません。なんですか?」

躓くような物もないのに転んで聞こえなかったフリをするライラを責めることもできず、私に目を向けるも私も詳しいことは話せないので首を横に振るのみ。お兄ちゃんとミクリオは顔を見合わせてため息をついた

「…ま、見ればわかるだろう」

「…だよな」

長い階段を降りた先の角で、何やら動く物体を見つけて恐る恐る見ると、憑魔が人を食べていた。足だけがまだ口からはみ出ている状態で。

「憑魔だ!下がれミクリオ!」

「何を言う!僕だって…」

「俺とライラで大丈夫。心配するなって!ユイは援護を頼む!」

「わかった…」

お兄ちゃんに悪気がないのはわかってるけど、ミクリオの浮かない顔を横目に見ながら2人の援護をする。杖をぐっと握り締めて悔しそうにその場に立つミクリオを見ると、悲しい気持ちになる

「ふぅ、終わった…」

憑魔も消えて、食べられていた男性は地面へ倒れる。すると、顔を上げて辺りを見回し、すぐ目に入ったお兄ちゃんに声をかけた

「ごほっ…ごほ、君が助けてくれたのか。俺は…どうなってたんだ?」

「えっと、おぼれてたみたい…です」

「そうか…いやぁ、情けないな。戻って大人しく休んでおくよ…なに、大丈夫。一人で戻れるよ」

そう言った従業員さんは一人で立ち上がり、来た道を戻っていった。

「よかった…これで心置きなく遺跡探検できるな、ミクリオ?」

「次からは僕も戦う」

「ミクリオは憑魔を浄化できないだろ?」

「じゃあこれからずっと君の後ろで指をくわえて見てろって言うのか?僕は、足手まといになる為についてきたんじゃない!」

「ミクリオ…」

先ほどの戦闘のミクリオを見る限りではこの決断に出るのは間違いなかった。ミクリオは私に目を向け、距離を近づけてきた

「ユイ、僕も浄化の力を手にする方法はある?」

「ミクリオが契約して、ライラの力に連なる陪審になってお兄ちゃんの器に宿ること…かな…」

目を逸らしながら言った私の肩を掴んで、じゃあそれで、と契約を進めようとするミクリオを見たお兄ちゃんがすぐに止めに入った。

「ダメだ!ミクリオ!そんな事簡単に決めちゃ!」

「君に言われたくないな!君だって導師になるってあっさり決めたじゃないか!」

「それとこれとは別だろ!ミクリオは、憑魔を浄化するのが夢なのか?違うだろ!」

「僕は天族だ、天族の天敵とも言える憑魔を浄化したいって思うのは自然な事だと思うけど?」

「カエルがヘビを退治したいって思わないだろ!」

「僕はカエルじゃない!」

「何ムキになってんだ!ちゃんと聞いてくれ!ミクリオ!」

このままでは喧嘩になっちゃう…

「ミクリオもお兄ちゃんも落ち着いて!ちゃんと話し合おうよ??ね??」

「「ユイは黙って!」」


2人の大きな声に驚いてビクッと肩が跳ねた。その様子を見た2人は先ほどまで言い争っていたけど、それを止め、しばらくの沈黙が続いた。

「…ムキになってなど、ない」

「ミクリオ…」

「足手まといは宿で待ってるよ」

背を向けて、出口へと向かうミクリオがとても小さく見えた気がした。久しぶりに2人の喧嘩を見た。滅多に喧嘩なんかしないのに…。ライラはミクリオを気にして追わないのですか?と聞いたがお兄ちゃんは拗ねたようにそれを拒否して先へ進もうとする。

間に置かれた私は、

「ライラ、お兄ちゃんのこと、任せても大丈夫??」

「ええ、この場所でしたら、ユイさんなしでも大丈夫そうなので…」

いってらっしゃい、とそう言っているように微笑んでくれるライラにありがとう、と返事した。お兄ちゃんを見ると、ムスッとした表情で私から目を逸らした。どっちも意地っ張りなんだから…

「私、行くね?」

「わかった…」

お兄ちゃんのことも心配だけど、バラバラになるのも良くない。ミクリオのところに行かなくちゃ…そう思った私は彼を追うように出口へと走った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ